Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2012年7月26日 No.3095  多国籍企業行動指針を素材にOECDの意義について聞く -OECD諮問委員会2012年度総会

経団連のOECD諮問委員会(斎藤勝利委員長)は13日、東京・大手町の経団連会館で2012年度総会を開催した。当日は、議案審議に先立って、小寺彰・東京大学大学院総合文化研究科教授からOECDの意義について説明を聞いた。小寺教授の説明概要は次のとおり。

■ OECDのルール策定機能に着目すべき

OECDは、先進国間の政策協調に加えて、ルール策定という重要な機能を有している。多国籍企業行動指針、モデル租税条約、外国公務員贈賄防止条約、最近では紛争鉱物ガイダンスがその例である。モデル租税条約、外国公務員贈賄防止条約の例に見るように、日本は、OECDで策定されたルールには条約や国内法を改正するなどして結局は対応してきているのが実情である。
次に、多国籍企業行動指針を主な素材としてOECDの意義を説明する。

■ 準法律的な機能を果たす多国籍企業行動指針

対外投資の主要アクターはホスト(投資先)国、ホーム(投資元)国、企業の3者であり、ホスト国に対して企業が義務の実施を迫るメカニズムとして投資協定、経済連携協定(EPA)等があるのに対して、企業に国際的な行動基準の遵守を迫るメカニズムとして機能するのがOECD多国籍企業行動指針(以下、行動指針)である。ホーム国に対しては、投資に関する協定と行動指針が結び付くかたちで義務が課されるようになってきている。すなわち、最近発効したカナダ・コロンビア自由貿易協定(FTA)の投資章においては、「国際的に認知された企業の社会的責任に関する基準」を国内で事業活動を行う企業等が遵守するよう両国が勧奨すべき旨が規定されており、「国際的に認知された基準」として行動指針が想定されている。

行動指針は国際法上のソフトローである。ソフトローは、法的拘束力はないが、行動指針で言えば、各国連絡窓口(NCP、National Contact Point)による紛争処理基準として機能したり、投資協定仲裁における保護対象として投資の適切性を判断する際の基準となるなど国際的な説明責任の根拠にもなっているなど、法律に準じる機能を有している点に十分留意する必要がある。日本をはじめ各国の税制に受容されて実施されているOECD移転価格ガイドラインのような例もある。

■ 改訂行動指針では本社による内部点検の実施が重要

昨年改訂された行動指針では人権に関する規定が新設された。国際的な人権保障では、国内の人権保障とは異なり、人権が尊重、擁護されるような文化的土壌、社会環境の整備に重点が置かれており、男女平等を確保し、児童労働などが行われないようにするうえで企業の事業活動は極めて大きな影響を与える。ホスト国の環境にあわせるのではなく、その改善に努めることが求められる。そのためには、本社による内部点検(デューディリジェンス)の実施が重要となる。

■ 行動指針の内容を不断に点検しアップデートすることが重要

ソフトローは、署名・締結といった形式を充足することが重要な意味を持つハードローと異なり、内容を適切なものとすることで遵守を確保していくものであり、したがって内容を不断に点検しアップデートする必要がある。

行動指針への参加国拡大(新興国への適用拡大)は必要であるが、内容が適切であれば、非参加国の多国籍企業にもデファクト基準として法的な機能を果たし得る余地がある。先に挙げたカナダ・コロンビアFTAにおいても、「国際的に認知された基準」とされており、行動指針に参加しているか否かは問われていない。

■ OECDのルールには策定段階から関与すべき

OECDにおけるルール策定は、EPA、WTOのような直接的なインパクトはないものの、構想が持ち込まれ、長期間かけて練られて徐々に規則化されるという特性があり、これを踏まえて対応せざるを得ない。行動指針の場合は、そもそも企業を規律の対象としているため、改訂にあたって企業側が防御に立たされるのはやむを得ないが、投資先現地に適応しすぎると指針上問題が生じる面があるなど、改訂の背景にある意図を把握して的確に対応する必要がある。規則化された時点で対応しようとしても遅く、ルール策定の段階から関与すべきである。

【国際経済本部】