Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2013年10月10日 No.3149  「わが国の社会保障制度のあるべき姿」について聞く -国立社会保障・人口問題研究所の西村所長から/社会保障委員会

説明する西村氏

経団連の社会保障委員会(斎藤勝利委員長、鈴木茂晴共同委員長)は9月26日、都内で会合を開催し、国立社会保障・人口問題研究所の西村周三所長から、「わが国の社会保障制度のあるべき姿」をテーマに説明を聞いた。概要は次のとおり。

(1)社会保障制度改革国民会議の報告書への評価

今年8月6日、社会保障制度改革国民会議が報告書を取りまとめた。全体としてよくまとまった内容である。特に、高齢者ばかりでなく次世代への配慮がなされた点や、給付の重点化・効率化、ICTの活用などへの言及が盛り込まれたことは、高く評価している。

報告書では「全世代対応型」の社会保障という観点から、年金制度における世代間の公平確保がうたわれたが、高齢者の社会貢献を政策的に仕組んでいくことも必要である。また、経済が悪化するケースを考えれば、マクロ経済スライドの発動についても、もう少し議論を深掘りすべきであった。さらに現在の公的年金制度は、父・母・子2人の「標準世帯」をイメージした制度となっているが、40代の単身世帯は20年前から倍増している。また、国民年金の加入該当者の4割が無年金となるおそれもあり、今後は同世代間の分配格差がより顕著となっていくだろう。

いまや社会保障は、経済全般に影響を与える決定的に重要な課題であり、公的部門のみならず、「官民の協力」のあり方についても、掘り下げた議論が望まれる。例えば「セーフティネット」論に関して、「何を・どこまで社会が保障すべきか」といった議論があいまいなままであり、もっと詳しく詰めるべきである。

(2)地域包括ケアシステムの課題

住まい、医療、介護、予防、生活支援の五つが、地域で一体的に提供される仕組みのことを「地域包括ケアシステム」という。例えば米国のフロリダでは、高齢者だけの街(シルバータウン)が形成されており、これも地域包括ケアシステムが目指す一つの選択肢となろう。

他方で日本の高齢者は、個人を尊重するよりも、若い人と暮らしたいと考える人が多い。そこで国がそれぞれの市町村に対し、地域包括ケアシステムの構築をお願いしている。しかし肝心の自治体は、システムの具体的な姿をイメージできていない。地域包括ケアシステムは、自治体や民間企業がサービスを提供し、住民に負担を求めるかたちとなるため、もっと民間企業の意見を聞くべきではないだろうか。さらに、高齢者のケアを地域がみていくという大変重要な課題であるにもかかわらず、国民からの理解が十分ではない。国民の意識を変えていくための議論も必要である。

20年後には、資産は有するものの低所得に甘んじる高齢者が、都市部を中心に急増すると見込まれる。こうしたなか、効率的な医療・介護サービスを提供するため、住宅を有する高齢者に、どこまで私有財産としての住宅の保有をあきらめてもらうのかも論点となる。例えば戸建て住宅に住む高齢者への介護サービスの提供は、どうしても非効率となるし、マンションも共有スペースがあまりない。都市における地域包括ケアシステムでは、従来の戸建て住宅やマンションとは違う、新しい構造の住宅が必要となる。民間企業の役割は、高齢者のライフスタイルを、効率的なサービス提供が可能となる住まい方に変えていくことであると考えている。官への依存体質を脱却し、官民協力のもとで、こうしたさまざまな課題に対処していかなければならない。経済界の主体的取り組みが望まれる。

【経済政策本部】