Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2013年10月10日 No.3149  高齢者の住まい確保に向けた自治体間連携の可能性で説明聞く -高齢社会対応部会

経団連は9月27日、東京・大手町の経団連会館で、都市・地域政策委員会・住宅政策委員会共管の高齢社会対応部会(渡邊大樹部会長)を開催した。三菱総合研究所人間・生活研究本部の奥村隆一主任研究員から、高齢者の住まい確保に向けた自治体間連携による取り組みについて説明を聞くとともに、意見交換を行った。
講演の概要は次のとおり。

今後、首都圏を中心に都市部では高齢化が急激に進行していく。例えば首都圏ではこれから15年間で、過去15年間と比べて1.5倍の速さで高齢化が進み、2020年以降、団塊の世代が後期高齢者へと移行していく。この結果、これまでどの国も経験したことのない超高齢社会を迎えることが確実となっている。

この課題に対して、都市部が単独で自己完結型の政策対応を図ろうにも、根本的な解決は難しい。一方で、地方部は過疎化に苦しみ、地域経済をいかに維持するかが大きな課題になっている。この二つの課題を同時に解決しようという試みが、高齢者居住にかかる自治体間連携の取り組みである。

現在、東京都杉並区と静岡県南伊豆町において、都市部から送り出した高齢者を地方部で受け入れるという枠組みで、先行した取り組みが進められている。杉並区の高齢化率は全国平均に比べて低いものの、高齢者人口のうち後期高齢者が大きな割合を占め、要介護認定率も高い。特別養護老人ホーム(以下、特養)の待機者2000人のうち、要介護度が高く、緊急性の高い待機者が半数以上を占めている。

この待機者の解消が急務となっているが、1000床の特養を整備する場合、必要な用地面積は約5万平方メートル、取得費用は200億円である。この用地不足と高い地価が障害となって、特養の整備は十分に進んでいない。また、杉並区の場合は、南伊豆町に区民向け宿泊施設を所有するほか、「健康学園」跡地の活用も課題となっていた。そこで杉並区では、南伊豆町の区有地を活かした保養地型特養の整備について検討を開始した。

高齢者居住における自治体間連携を通じ、受け入れ側の自治体では、介護需要が増大し、家族等の来訪者が増えるなど、雇用機会の創出をはじめ地域経済の活性化が図られる。同時に送り出し側の自治体では、介護施設への待機者を減少させることができる。

ただし、受け入れ側の自治体は、介護サービスの供給基盤が整わなければ、周辺地域を含めて介護サービスの供給不足に陥りかねず、また、高齢者が移住後に要介護状態となれば、介護保険財政上の負担となる。送り出し側の自治体としても、高齢者に移住を働きかける理由づけが難しく、追い出しと誤解されないよう、あくまで高齢者自身の意思決定を前提として、情報提供や働きかけをどのようにして行うかが課題といえる。

高齢者移住にかかわる検討は緒に就いたばかりである。今後はこうした課題を踏まえたうえで、杉並区、南伊豆町の取り組みを先行モデルに産学官の連携による移住計画の策定など、高齢者居住にかかる自治体間連携について、さらに検討を深めていくことが求められる。

【産業政策本部】