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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2013年10月10日 No.3149 「東アジア情勢とわが国の外交・防衛政策の課題」 -昼食講演会シリーズ<第21回>/拓殖大学教授(前防衛大臣) 森本敏氏

経団連事業サービス(米倉弘昌会長)は9月19日、東京・大手町の経団連会館で第21回昼食講演会を開催し、前防衛大臣の森本敏拓殖大学教授から「東アジア情勢とわが国の外交・防衛政策の課題」をテーマとする講演を聞いた。講演の概要は次のとおり。

■ 日中・日韓をめぐる情勢

現在、尖閣諸島をめぐり日中関係が非常に難しい状況にある。中国は1971年以降、尖閣諸島の領有権を主張しているが、日本が1895年に領土編入した尖閣諸島はサンフランシスコ平和条約において返還すべき島嶼に含まれておらず、また、米国から日本へ沖縄の施政権が返還される際に、尖閣諸島は対象地域に含まれるなど、日本固有の領土であることは歴史上も国際法上も明らかであり、日本政府は日中間に領有権問題が存在すること自体を認めていない。

しかるに、昨年4月に東京都知事が尖閣諸島を購入する意向を表明し施設建設を検討しようとしたことに対し、中国は外交ルートで激しい抗議を行ってきた。日中関係の緊張を緩和する必要があると考えた当時の野田首相は、同年9月に「尖閣諸島を平穏かつ、安定的に維持管理するために国が取得する」ことを決め、閣議決定した。

これを契機として、中国は、過去1年にわたり週平均3~4隻の公船を送って周辺海域を侵犯し続け、海上保安庁が退去を要求するも聞き入れず、現場では緊張度の高い状態が繰り返されている。中国は、領海侵犯の常態化によって実効支配の機会をうかがうと同時に、今年8月第1週には、領海内に長時間(18時間以上)停泊・徘徊し、安倍政権首脳の靖国神社参拝をけん制するなど、領有権の主張を超えた政治的なメッセージとして用いている。また、昨年12月には中国機の領空侵犯も起こり、自衛隊機の対領空侵犯措置は300回を超え、今年9月には中国軍の無人機が周辺上空で確認されている。

日韓関係についても、歴史認識や竹島の領有権など、さまざまな問題を抱えており、日韓の貿易総額の減少や日本人観光客の大幅な減少など、経済面への打撃も大きい。

今後、秋から冬にかけて予定されている国際会議にあわせ、日中・日韓の首脳会談など、改善のきっかけとなるような場を設定できるか、先行きは不透明である。今後も、島嶼防衛に重点をおいた警戒監視体制の拡充など、息の長い対応が重要となってくる。

■ 今後の安全保障・防衛に関わる諸課題

安倍政権は、外交・安全保障政策の審議・決定の司令塔となるべき「安全保障会議」の創設を打ち出しているが、これを実現するには、同会議と事務局設置に関わる法整備が必要となる。また、同組織に従事する公務員の機密保持を強化するため、特定秘密保護法の策定も必要となる。

現在、(1)国家安全保障戦略(外交・防衛を軸とする国の包括的な基本方針)の策定(2)集団的自衛権の行使に関わる憲法解釈(3)防衛大綱策定、特に、防衛力の強化(島嶼防衛、警戒監視能力、ミサイル防衛などの機能強化)(4)武器輸出三原則のあり方――等、安全保障と防衛に関わる諸課題について、政府の関係閣僚会議や有識者懇談会等、検討組織が立ち上がっており、できるだけ早期に方針を確定し、関連法案の策定などの必要な措置を講じることを目指している。

特に集団的自衛権の行使を容認するかどうかは、与党内での意見調整がカギとなり、政治判断として現実的な着地点を模索することになろう。

いずれも、わが国の安全保障のあり方に関わる非常に大きな課題であり、国会審議を含め、安倍政権がこれらをどのように乗り切るかが注目される。

【経団連事業サービス】

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