Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2013年12月5日 No.3157  目指せ健康経営/従業員の健康管理の最前線<2> -保健事業の重要性・データヘルスの可能性

東京大学政策ビジョン研究センター健康経営研究ユニット特任助教
ヘルスケア・コミッティー会長
古井祐司

従業員は企業の重要な経営資源。従業員の健康づくりを積極的に進める健康経営(*)に企業がいま取り組み始めた背景には、平均年齢の上昇により生活習慣病の重症化が増えること、また健診データの電子的標準化により従業員の状況の把握が容易になったことがあります(11月28日号参照)。それでは、健康経営の効果を高める具体策はどのようなものでしょう。

■ 知ることから始まる健康経営

特定健診制度の導入に伴って、健康保険組合や全国健康保険協会(協会けんぽ)などの医療保険者に健診データが蓄積され、それぞれの職場でなりやすい病気や健康状況が異なることが示されています。同時に、その特徴をわかりやすく示すことで、そこに所属する人々の意識を高められることもわかってきました。

他企業との比較が容易になったおかげで、健康経営に取り組んでいる企業は、同業他社に比べて、病気のリスクを有している従業員の割合が小さい構造であることがすでに示されています。また、同じ企業内でも、営業系の部署は血糖が高く、製造系では血圧が高いといったことがわかると、そのようなリスクを醸成する背景(職場環境)は何か、有効な対策として何ができるか、そういった検討を始める起点になります。

このように、集団の特徴を可視化し、関係者で共有することができれば、組織として健康づくりに取り組むことを促し、実効性を高めることが可能です。

■ 政府の意志が感じられる新戦略

今年6月に安倍政権は「健康・医療戦略」を閣議決定しました。その目玉の一つである「データヘルス」は、データを活用して人と組織を動かし、健康づくりの効果をあげることがねらいです。したがって、これらのデータが蓄積される医療保険者と母体企業(事業主)との協働が、健康経営の実効性を高めるうえで不可欠になります。そのような視点から、厚生労働省保険局から提示された「コラボヘルス」(医療保険者と事業主との協働)という概念は注目に値します。

健康保険組合連合会が実施した「保健事業の運営実態からみた健康保険組合の優位性に関する調査研究」によると、事業主と健保組合との連携が強いほど、医療費が低額である傾向があり、コラボヘルスが健康効果を高める可能性がうかがえます(図表参照)。2004年7月に厚生労働大臣告示として、保健事業に関する実施指針が示され、事業主と健保組合が連携した生活習慣病の予防に重点が置かれてきましたが、今回の政府戦略に基づき、コラボヘルスをさらに強く進めるよう、この実施指針も改定されます。

同じく6月に示された「日本再興戦略」では、“予防・健康管理の推進に関する新たな仕組みづくり”が主要施策の一つとして提示されました。今後の予防・健康管理は、データを起点とした「個人の意識醸成」と「集団特性に応じた環境整備」から構成されます。その具体例と新しい仕組みについて、次号よりご紹介します。

健康保険組合と事業主との連携度合と医療費の状況

*「健康経営」は特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標

「目指せ健康経営/従業員の健康管理の最前線」はこちら