Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2013年12月19日 No.3159  目指せ健康経営/従業員の健康管理の最前線<4> -各企業・保険者の多様な取り組み

東京大学政策ビジョン研究センター健康経営研究ユニット特任助教
ヘルスケア・コミッティー会長
古井祐司

前回は、健診データに基づき全従業員の健康意識を高めることに組織として取り組んで、効果を上げた企業をご紹介しました(12月12日号参照)。今回は、従業員同士が影響しあって、健康改善を実現した企業を紹介します。

■ 従業員が動いた背景は?

ACQUA(アクア)は美容院事業を展開する企業で、従業員の平均年齢は20代半ばです。私たち東京大学の研究チームは予防医学研究の一環で、2年前の秋に初めてアクアを訪問し、従業員の健康チェックを行いました。その結果、肥満者はほとんどなく、やせている人が多い一方で、血糖値の平均が男性では100ミリグラム/デシリットル(mg/dl)程度あり、50代並み(国民健康栄養調査)の状況でした。この値には私たちも驚きましたが、従業員の皆さんからも「なぜ私たちは50歳の状態なのか」という声が上がりました。

この背景には、朝食を抜いたり、接客に追われ昼食を食べ損ねたりするケースが多いこと、まとまった休憩時間が取りにくい環境下で甘い清涼飲料を1日に何本も口にする姿がありました。また、野菜不足であることも確認されました。そこで私たちは、欠食を続けると基礎代謝(主に筋肉量)が減って、逆に太りやすい体になることや、清涼飲料には相当な糖分が含まれていることなどを伝え、そのような職場環境が高血糖を醸成している可能性を示唆しました。

1年後、再び健康チェックにうかがったところ、なんと血糖値は10ミリグラム/デシリットル(mg/dl)ほど下がり、20代の平均になっていました。職場でどのような変化があったのでしょう。まず、飲むものは水やお茶に替わっており、交代で昼食の時間も取っていました。マネージャーが昼食時間の確保など従業員の働く環境を整えただけでなく、従業員同士も健康づくりの話題で盛り上がるようになったそうです。菓子パンばかり買ってくるメンバーには、同僚が「バランスを考えないと血糖値が上がっちゃうよ」といった声をかけていました。

昨年の健診データから職場の特徴やその背景が共有されたことで、従業員が健康問題を「自分たちのこと」としてとらえやすくなり、具体的な行動につながったことがうかがえます。

■ 「仲間コーチ」が活躍!

このように、同じ目標に向かう仲間が相互にコーチ的な役割を担うことによって、集団に良い効果を与えることは、米国の先行研究(減量プログラム)でも示されています。「仲間コーチ」は同僚の日常の行動を熟知し、職場環境を共有していることから、従業員相互に必要な情報やアドバイスを伝えやすいという特徴が考えられます。また、「朝食や野菜を十分取るようになったら、体が軽く、疲れにくくなった」といった「仲間コーチ」の経験談は、「自分もできるかも、やってみよう」というきっかけになるかもしれません。

最近は従業員を越えた波及効果もうかがえます。アクアのあるお客さんは、「『若いうちから朝食を取る癖をつけると良いですよ』といった話を最近、美容師さんからうかがいました」と話してくれました。また、アクアの様子を知った同業他社から「他人事ではない。うちもチェックしよう」という声も上がっています。

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