Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2014年1月1日 No.3160  目指せ健康経営/従業員の健康管理の最前線<5> -各企業・保険者の多様な取り組み

東京大学政策ビジョン研究センター健康経営研究ユニット特任助教
ヘルスケア・コミッティー会長
古井祐司

前回は、従業員同士が影響しあって、健康改善を実現した企業をご紹介しました(12月19日号参照)。今回は、これから取り組みを始める企業の参考となるよう、健康経営を実現した企業の取り組みを時系列で整理し紹介します。

■ 「健康宣言」から始まった健康経営

花王は経営トップからのメッセージとして2008年に「花王グループ健康宣言」を打ち出し、健康は従業員一人ひとりの生活基盤であるばかりでなく、企業、社会にとっても財産であることを示しました。同時に、健康づくりの主体は従業員本人ではあるものの、個人では限度もあり、会社としても積極的に支援・応援することを伝えています。

09年には特定健診やレセプトなどのデータから「花王グループ健康白書」を作成し、従業員の健康状況を可視化しました。さらに「白書勉強会」を設置し健康課題を社内で共有することで、具体的な対策を議論しやすい土壌を醸成しました。例えば、製造部門では血圧の高い従業員が多い、営業部門は血糖が高い傾向があるといった特徴が明示されることで、事業所ごとにその背景を探り、対策を立てやすくなりました。また、70企業の健康保険組合が参加する研究会(保険者機能を推進する会)を通じて、従業員の健康状況を他企業と比較することで、「花王は若年で肥満化する傾向がある」といった特徴がわかり、どこに施策の重点を置くべきかが明確になりました。同年、「KAO健康2015」を策定し、データに基づく健康づくりを展開することになりました。

■ 振り返れば「コラボ・ヘルス」が健康経営のポイント

「KAO健康2015」のスローガンは、(1)重症疾患を半減し現役死亡をゼロに(2)メンタル疾患を低下傾向に(3)ヘルスリテラシーの高い社員づくり――です。(1)(2)を含め健康を実現する基盤が(3)であることから、同社では従業員が健診結果を理解し、「自分ごと化」することに力を注いでいます。13年から自分の健診データは冊子やパソコンだけでなく、スマートフォンからも閲覧できるようにしたり、健康づくりに取り組む人を応援する「健康マイレージ」を推進したりしています。マイレージ対象のプログラム参加者の肥満改善率は高く、またプログラムにより効果に差があることから、今後は従業員や事業所の特性に応じたプログラム設計も期待されます。

私が08年から同社の取り組みを拝見しているなかで、次の3点が健康経営を実現したポイントであったと感じます。一つは、従業員の健康づくりを経営課題と位置づけ、現状および課題を「白書勉強会」などを通じて全事業所で共有したことです。次に、事務職は組織を動かし職場環境を整備する、医療専門職は従業員の健康相談・指導に注力する、という役割が明確化されたこと、さらに、健保組合が健康経営のための素材と健康づくりのツール・機会を提供したことです。

このように企業と健保組合が協働する「コラボ・ヘルス」は、働き盛り世代の健康や生産性の向上に寄与します。この考え方は大企業だけでなく、中小企業にも広がりをみせており、大分県では全国健康保険協会(協会けんぽ)の支援を受け、すでに200社以上の企業が「健康宣言」をしています。

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