Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2014年1月23日 No.3162  2014年版経労委報告を公表 -デフレからの脱却と持続的な成長の実現に向けて

記者会見を行う宮原副会長・経営労働政策委員長

経団連は15日、「2014年版経営労働政策委員会報告」(経労委報告)を公表した。経労委報告は、春季労使交渉に臨む経営側の基本方針を示したもの。副題を「デフレからの脱却と持続的な成長の実現に向けて」とし、第1章「わが国企業を取り巻く経営環境と経済成長に向けた課題」、第2章「多様な人材の活用」、第3章「2014年春季労使交渉・協議に対する経営側の基本姿勢」の3章構成としている。

会見を行った宮原耕治経営労働政策委員長は、「今年はデフレからの脱却を実現する好機を迎えている」と強調したうえで、企業労使には、経済の好循環実現に向けたマクロ的な認識を踏まえて、今次春季労使交渉・協議に臨むことへの期待を述べるとともに、「業績が好調な企業は、賃金の引き上げについてさまざまな方策を検討することになる」との考えを示した。

2014年版経労委報告のポイント
―2014年春季労使交渉・協議に対する経営側の基本姿勢など

経団連は15日、「2014年版経営労働政策委員会報告」(経労委報告)を公表した。主なポイントは次のとおり。

■ 好転する経営環境と今後の政策課題

安倍政権の経済政策により、行き過ぎた円高の是正や株価の上昇など、わが国企業を取り巻く経営環境は大幅に改善している。経営環境のさらなる改善に向けて、規制改革の断行や経済連携の推進など、成長戦略の着実な実行が不可欠である。経済界も、安倍政権の経済政策に呼応し、経済の好循環の実現に取り組む。

そのうえで、わが国経済を本格的な成長軌道に乗せるためには六つの課題、すなわち「東日本大震災からの本格的な復興」「地方経済・中小企業対策」「電力価格の抑制・安定供給の確保」「社会保障制度改革の推進」「法人税負担の軽減」「雇用・労働市場の改革」への対応が必要である。

とりわけ「雇用・労働市場の改革」について、「正規雇用と非正規雇用の二極化論」から脱し、多様な働き方を推進することや、勤務地などを限定した正社員の積極的な活用などが重要である。

■ 多様な人材の活用

生産性の向上やイノベーションの創出に向けては、雇用・労働市場の改革とあわせて、企業の人材戦略が極めて重要である。女性や高齢者の活躍推進、若年者雇用、仕事と介護の両立、障害者雇用、グローバル人材の確保・育成への対応が求められる。

■ 2014年春季労使交渉・協議に対する経営側の基本姿勢

自社が抱える課題に労使が協調して取り組むため、「労使パートナーシップ対話」をさらに充実することが重要である。

また、賃金等を決定する際の基本的な考え方として、総額人件費管理の徹底が挙げられる。総額人件費の多くが所定内給与に連動するかたちで決まってくることから、所定内給与を引き上げると総額人件費を約1.7倍増加させることに留意する必要がある。総額人件費の原資は自社の付加価値であることから、総額人件費は、自社の付加価値額の増加率を十分に踏まえたうえで決定していくことが望ましい。

さらに、賃金は労働基準法第11条に規定されているとおり、賃金・手当・賞与など「労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」を指す。したがって、「賃上げ」という場合、ベースアップのみならず、「年収ベースでみた報酬の引き上げ」ととらえるべきである。

加えて、多くの企業ですでに多様な賃金制度が導入されており、毎年春に実施される賃金水準の改定を「定期賃金改定」ととらえることが名実ともに実態に合致している。

■ 労働側スタンスへの見解

労働側は、実質的な統一ベア要求である「1%以上の賃上げ(月例賃金の引き上げ)」を要求しており、この要求根拠として「過年度物価上昇分」や「生産性向上分」を挙げている。企業としては、組合の具体的な要求内容を確認し、個別企業労使が、自社の状況について共通の理解に立って、議論することが重要である。

また、労働側は中小の労働組合に対し、大手との規模間格差の是正を図る観点から、大手の労働組合を上回る賃上げ要求をしているが、労使双方の慎重な議論が望まれる。

■ 経営側のスタンス

今年は、デフレからの脱却と持続的な経済成長の実現に向けた最大のチャンスを迎えている。昨年の「経済の好循環実現に向けた政労使会議」で経団連がマクロ的な見地から述べたとおり、アベノミクスによってもたらされた企業収益の改善を、設備投資や雇用の拡大、賃金の引き上げにつなげていくことが重要である。

企業労使は、経済の好循環実現に向けたマクロ的な認識を踏まえて労使交渉・協議に臨むことになるが、賃金などの労働条件は労使が自社の経営状況に即して徹底的に議論して決定するものである。賃金は、基本給をはじめ諸手当や賞与・一時金、福利厚生費なども含め、自社の支払能力に基づき判断・決定するとの原則は揺るがない。

そのうえで、業績が好調な企業は、拡大した収益を設備投資だけでなく、雇用の拡大、賃金の引き上げに振り向けていくことを検討することになる。その際、賃金の引き上げについて、ここ数年と異なる対応も選択肢となり、実に多様な対応が考えられる。

【労働政策本部】