Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2014年1月30日 No.3163  経団連労使フォーラム/篠田副会長基調講演(要旨)

経団連事業サービスが開催した第117回経団連労使フォーラム(別掲記事参照)で27日、経団連の篠田和久副会長が基調講演を行った。

目指すべき国・経済の姿

今後の日本経済の発展とその道筋を考えた場合、目指すべき国や経済の姿としては、(1)持続的な経済成長と財政健全化を実現すること(2)企業収益の拡大が雇用・家計所得の向上に結びつく「経済の好循環」を形成すること(3)日本経済を真にグローバルなものとすること(4)最先端の科学技術で世界をリードすること――の四つが挙げられる。

民間企業こそが、生産活動や設備投資、イノベーションの創出などを通じて経済成長を牽引する主体である。持続的成長を実現するためには、企業活力を最大限、発揮させることが不可欠である。

また、成長を持続的なものとしていくためには、経済のパイの拡大によって得られた果実が、広く国民全体に行き渡ることが重要である。経済界としても、ビジネス機会を積極的に見つけ出し、挑戦していくことで収益を拡大させ、それを設備投資や雇用の拡大、賃金の引き上げなどにつなげ、「経済の好循環」の実現に努めていく必要がある。

成長を牽引する「六つのエンジン」

東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年までの6年間を、魅力と活力に溢れる日本を築き上げるための集中対応期間と位置づけ、改革に取り組んでいくことで、以下の「六つのエンジン」を機動させることが重要である。

(1)グローバル化への対応

中国、米国、EUとの間で大型の経済連携を推進していくことが欠かせない。TPP(環太平洋経済連携協定)を通じた包括的で高い水準のルールづくりに積極的に関与するとともに、東アジア包括的経済連携(RCEP)や日中韓FTAを推進し、20年を目途にアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)を構築すべきである。並行して日EU経済連携協定を早期に締結すべきである。また、力強い成長を続けるアジア諸国の成長のボトルネック解消に向けた、ハード・ソフトの両面でのパッケージ型インフラ輸出の促進も重要な柱である。

さらに、20年の東京オリンピック・パラリンピックを見据え、高いレベルでの「観光立国」を実現することが求められる。

(2)イノベーションの加速

わが国企業は開発・製造・物流等で革新的なプロセスを実現するプロセス・イノベーションに強みがあるとされてきた。これに加え、高効率発電や自動運転車など、大きな付加価値を持つ新製品・新市場を生み出すプロダクト・イノベーションを創出するポテンシャルも有している。

ICTの積極的活用や官民挙げた革新的エネルギー技術・製品開発などにより、新しいプロダクト・イノベーションが起こり、新産業・新事業が創出されていく可能性がある。これを形にしていくため、規制改革などを通じ、企業の活力や創意工夫を最大限に引き出していくことが重要である。

また、経団連ではイノベーションの加速の観点から、全国11の都市で「未来都市モデルプロジェクト」を実施している。この取り組みを通じて社会的課題の解決や産業システムの変革、地域の活性化へつながる成果も芽生えつつある。

(3)国内の新たな需要の発掘

わが国は現在、少子高齢化に伴う人口減少に直面している。しかし、民間の創意工夫が最大限に発揮されれば、新たな需要や産業が生まれ、必ずや経済社会の活力を高めていけると考えている。

加えて、地域の基幹産業として大きな役割を担う農業の競争力を向上させ、成長産業とすることも極めて重要である。今後、農地の集積による経営規模の拡大・効率化や農商工連携、6次産業化などが推進されれば、わが国農業にとって大きなチャンスが開けてくる。

(4)人材力の強化

今ほど企業家精神に溢れ、世界を舞台に活躍できるグローバル人材、イノベーション創出を担う高度理工系人材が必要とされる時代はない。英語教育の拡充や大学の国際化などの教育改革、採用・人事制度を含めたわが国の人材育成システム全体の見直しも視野に入れる必要がある。

また、女性が活躍しやすい環境を整えることも重要である。女性のポテンシャルが最大限発揮されるよう、働き方を多様で柔軟なものとすることが求められる。

(5)成長の基盤の確立

政府には、企業が安心して生産・投資計画を立てられるよう、電力を経済的に安定供給するための今後3年から5年程度の工程表を早急に提示し、実行してほしい。

中長期のエネルギー政策については、安全性を前提に電力の安定供給を最小の経済負担で実現するエネルギーの需給構造を構築し、同時に環境負荷を可能な限り抑制する取り組みが必要である。

(6)立地競争力の強化

IMD「国際競争力ランキング」によると、日本は世界60カ国中24位と中国、韓国などアジア近隣諸国の後塵を拝しており、その要因の一つが、法人実効税率の高さであるとの結果が出ている。グローバル競争が激化するなか、わが国がこの競争に伍していかなければ、生産拠点の海外シフトや対内直接投資の減少による経済活力の低下、雇用機会の減少など、国民生活への影響が懸念される。

そこで、事業環境の国際的イコールフッティングを確保し、企業の国際競争力を強化する観点から、法人実効税率を速やかにアジア近隣諸国と均衡する25%程度へ引き下げる道筋をつけていかなければならない。

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成長実現に向けたさまざまな取り組みに共通するのは、民間活力を最大限発揮させるということである。六つのエンジンを着実に機動させ、労使一体で果敢に挑戦していけば、名目3%程度の持続的経済成長と健全な財政状況を達成することは可能である。