Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2014年4月24日 No.3175  「わが国の経済連携強化に向けた課題」 -慶應義塾大学の木村教授が常任幹事会で講演

講演する木村教授

経団連は2日、東京・大手町の経団連会館で常任幹事会を開催し、慶應義塾大学経済学部の木村福成教授から、「わが国の経済連携強化に向けた課題」と題する講演を聞いた。
講演の概要は次のとおり。

■ TPPの必要性

1980年代以前の国際貿易では、生産と消費を空間的に切り離す「第1のアンバンドリング」がみられ、国際分業が産業単位であった。そのため、上流から下流までの生産をすべて一国で仕上げて、完成品を他国に輸出する構造であった。その後、80年代以降のIT革命によるコーディネーション費用の軽減により始まった「第2のアンバンドリング」は、国際分業を生産工程・タスク単位に変えた。「第1のアンバンドリング」では、原材料と完成品が貿易品目として動いていたが、「第2のアンバンドリング」は、部品・中間財の輸出入も行われ、またヒトやアイデアなどさまざまなものも国境を越えて移動するようになった。そのため、世界各国は、TPP(環太平洋経済連携協定)をはじめとするメガFTAsを推進し、関税の撤廃のみならず、「第2のアンバンドリング」に適した高い水準の自由化や知的財産保護等に向けた国際ルールづくりを進めている。

機械産業は、「第2のアンバンドリング」における国際分業を先導しているが、そのほとんどは、ASEAN+6、EU、NAFTAでつくられている。「第2のアンバンドリング」が最も進んでいる東アジアは、国際的生産ネットワークに組み込まれることで、経済統合の深化と開発格差の是正を達成しようとしている。加えて、適切な国際分業体制を構築すれば、日本企業は海外展開を進めながら、国内雇用の維持・増加を図れるので、日本にとってもメリットは大きい。

■ TPP交渉の行方

TPPについては、事実上毎週交渉が行われており、2、3カ月に1回のペースで行われる通常のFTA交渉と比べると、非常に早いスピードで進められている。難航している分野が関税、知的財産、競争、環境に絞られ、交渉の本丸である関税に焦点が当たっている。

昨年3月のわが国のTPP交渉参加表明以来、本格的な農業保護改革の機運が高まっている。新聞報道によると、日本政府は、現在85%程度のわが国の関税撤廃率を95%まで引き上げることを提示しているようだが、95%では妥結に至るのは難しい。主要農産品5品目も含め、日本ができる限り高い水準の関税撤廃を行うことが、TPP交渉妥結のカギである。

世論調査では、日本国民のTPPに対する支持は一貫して強いので、首相の決断によってTPP交渉の状況を打開させることが必要である。できる限り高い水準の関税撤廃を約束すれば、最後のハードルであるアメリカの国内政治において、自由貿易派を後押しすることになり、TPP交渉の妥結可能性は高まる。また、TPP交渉が妥結に向かえば、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)や日EU EPAなどの他のメガFTAs交渉の加速化・良質化が図られる。経団連には、TPP交渉妥結に向けて、もうワンプッシュ働きかけていただきたい。

【総務本部】