Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2014年6月19日 No.3181  高齢化・人口減少社会の住宅政策聞く -住宅政策委員会企画部会

経団連の住宅政策委員会企画部会(立花貞司部会長)は5月23日、都内で会合を開催し、国土交通省住宅局住宅政策課の武藤祥郎住宅投資推進官から、「高齢化・人口減少社会における住宅政策」をテーマに説明を聞いた。講演の概要は次のとおり。

1.少子高齢化における住宅政策

わが国では少子高齢化が急速に進んでおり、すでに人口は減少局面に突入している。国全体では生産年齢人口が大きく減少すると予想され、他方、大都市圏を中心に高齢者が増加する。現在、2.6人で1人の高齢者を支えているが、2040年には1.4人で1人を支える社会構造へと変化する。住宅政策はこうした課題に適切に対応していかなければならない。

まず、高齢化と住まいの関係をみると、諸外国に比べてわが国では高齢者向けの住まいの整備が遅れている。国が「施設から在宅へ」の方向性を打ち出しているなか、サービス付き高齢者向け住宅など住まいの整備を進めなければならない。また、寿命が延び、ライフサイクルが変化したことも踏まえる必要がある。現役引退後から最期を迎えるまでの期間が大幅に延びたことから、その間の住居の確保が課題となる。あわせて、介助や生活支援の必要性など自立度に合わせた住み替えをスムーズに行えるようにならなければならない。

次に、少子化と住宅政策の関係という点では、若年世帯における住居費負担の増加に注目している。長期にわたって給与所得が伸び悩むなか、若い子育て世帯が余裕ある間取りの住まいを確保することが困難になっており、理想の子ども数を持たない理由として、経済的な側面と住居の狭さを指摘する声が多い。低廉な家賃または価格で一定規模の住宅を確保しやすくすることができれば、少子化対策の一つのカギとなり得る。

2.住宅ストックの活用

欧米諸国では住宅流通の大宗を中古住宅が占めており、それに伴う規模のリフォーム市場も形成されている。他方、わが国の全住宅流通量に占める中古住宅のシェアは約13.5%、住宅リフォーム市場の規模は約6.7兆円にとどまっている。加えて、給与所得者の年収が減少傾向にあり、新築住宅よりも中古住宅を購入するという選択肢が住宅一次取得者の間で現実的になっている。こうしたことから、中古住宅・住宅リフォーム市場は今後、伸びる余地が大きいと考えられる。

また、わが国における住宅投資額をみると、1969年以降累計で862兆円の住宅投資がなされてきたのに対し、資産額は343兆円でしかない。一世帯当たりでみれば、住宅資産は50歳以上世帯で購入時から平均約2000万円減価していることになる。国民の資産である住宅を再評価し、価値を大幅に増大させ、その流通・活用を進めていくことができれば、若年層に良質・低廉な住宅を提供することが可能となり、豊かな住生活の実現につながる。

3.スマートウェルネス住宅・シティの実現に向けた取り組み

国民の健康長寿の延伸に向けて、安心・健康・省エネでバリアフリーにも配慮した歩いて暮らせるまちづくりは重要性が増しており、先般、それを具体化する政策として、「スマートウェルネス住宅・シティ」が日本再興戦略に盛り込まれた。(1)高齢者向け住宅の整備(2)ICTを活用した見守りや生活支援(3)まちのコンパクト化(4)公共住宅団地の再生による福祉施設拠点化(5)住み替えの円滑化による不動産の流通促進――等がそのポイントとなる。

今通常国会では、都市再生特別措置法改正案が成立した。まずは、多極ネットワーク型コンパクトシティの実現に向けて、行政サービス、生活サービスなどを鉄道駅の周辺などの誘導区域へ移していけるよう、政策面から後押しし、歩いて暮らせるまちづくりの実現を図ることとしている。

さらに、国土交通省では、16年3月と見込まれる住生活基本計画の改訂に向けて、スマートウェルネス住宅・シティの推進を含め、人口減少・少子高齢化社会に対応した住宅政策について有識者とともに検討し、展開を図っていく。

【産業政策本部】