Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2014年7月3日 No.3183  第103回ILO総会〈各議題の概要〉 -強制労働、インフォーマル経済のフォーマル化、雇用等テーマに討議

第103回ILO(国際労働機関)総会が5月28日から6月12日まで開催された(前号既報)。三つの技術議題の結論は次のとおり。

■ 「1930年の強制労働条約(第29号)の補完」

強制労働の被害者は現在でも世界全体で2100万人に達すると推計されている。一方、現行の強制労働条約の規定は、加盟国に強制労働の速やかな廃止を求めることのみにとどまっており、その実効性が問われている。今回、加盟国の取り組みをさらに前進させ、現代的な課題にも対処できるよう、新たな国際基準を策定するべく討議が進められた。

最大のポイントは、新しい基準を、法的拘束力のある「議定書」とするか、ガイドラインとしての「勧告」にとどめるかであった。当初勧告のみを策定することを主張していた使用者側が、人権問題にも積極的に関与している姿勢をみせるとの観点から議定書策定賛成に回ったため、議定書と勧告両方を策定することになった。

討議の過程で、新たな基準を元に過去の事案に対する救済を求める意見表明が一部の国の政府からあったこともあり、議定書の遡及効果について議論が行われた。ILOの法律顧問の答弁の結果、議定書は批准前の事項に遡及して適用されることはないことが確認された。

中心的な討議内容は、加盟国が取り組むべき強制労働の防止(予防)措置、被害者に対する保護、補償措置のあり方であった。この点は、使用者側の主張により、柔軟な対応を可能とする内容となった。具体的には当初、ILO事務局から提案のあった、「補償措置」という文言がより緩やかな「補償も一例とした救済措置」に置き換えられるとともに、当初勧告案に含まれていた「補償基金の設置」という文言は削除された。

最終的に、日本の政労使も一致して賛成票を投じるなど、議定書案と勧告案は圧倒的多数の賛成により採択された。

■ 「インフォーマル経済からフォーマル経済への漸進的移行の促進」

本技術議題は、法が及ばない、または実態的に適用されていない経済活動を指す「インフォーマル経済」に属する労働力の、フォーマル経済への移行促進を図るための国際基準設定を目指すものである。

今年の第一次討議では、基準の形式を法的拘束力のない「勧告」とすることが合意された。使用者側は、インフォーマル経済のフォーマル化の促進は経済の活性化に資すること、また、競争条件の平準化という点からもメリットがあることなどから、勧告策定に賛成した。加えて、インフォーマル経済の多様性や国ごとに異なる状況などを十分踏まえることが合意された。

勧告は、(1)インフォーマル経済の範囲(2)目的(3)法的・政策的枠組み(4)仕事における権利(5)使用者および労働者団体の役割(6)データ収集(7)フォローアップ――などの項目で構成されることとなり、具体的な内容は来年の総会での討議を経て決定される。

■ 「戦略目標『雇用』に関わる周期的討議」

2008年のILO総会で採択された「公正なグローバル化のための社会正義に関するILO宣言」では、各加盟国がディーセント・ワークの実現に向け、(1)雇用(2)社会的保護(3)労働における基本的原則と権利(4)社会対話――の四つの戦略目標に基づく政策を追求し、総会の場で周期的に議論することを定めている。今年の周期的議論のテーマは、10年に続いて2回目となる「雇用」であった。

今年は、各国の雇用の現状と課題、10年以降のILOの取り組みの評価と今後ILOに期待される施策等について議論を行った。使用者側は、雇用を生み出す源泉は企業である点を踏まえるとともに、ILOの活動の成果を中心に議論すべきと主張。一方、労働側は、雇用面を中心として包括的な政策パッケージの必要性を主張した。

討議の結果、ILOに期待される役割や政策として、加盟国の政策の開発と支援、雇用中心のマクロ経済政策、持続可能な企業、職業能力開発、G20など他の枠組みとの協調など、10の分野について盛り込んだ成果文書が取りまとめられた。

165カ国から約4500名が参加したILO総会

【国際協力本部】