Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2014年7月31日 No.3187  日本はASEANとの政策対話の強化を -政策研究大学院大学の白石学長が講演/アジア・大洋州地域委員会

経団連は10日、東京・大手町の経団連会館でアジア・大洋州地域委員会(伊藤雅俊委員長、江頭敏明共同委員長)を開催した。同委員会では、アジアの経済統合を成功裏に進めるうえでの課題とわが国の取るべき方策について検討を開始することとしており、その一環として、政策研究大学院大学の白石隆学長から、ASEANの政治経済情勢と経済統合の意義について聞いた。講演の概要は次のとおり。

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ASEAN各国は経済規模や民族・宗教が多様な小国ないし中規模国であるため、経済的には規模の経済を追求し、政治的には国際社会での発言力を維持するための「てこ」としてASEANを活用している。共通する課題は大きく二つある。

第一に、中国の国力の急増への対応である。ASEANにおける中国の勢力拡大の場は、一つは大メコン圏(GMS)であり、昆明をハブとする物流インフラを中心に経済協力を進めている。もう一つは南シナ海であり、今後、力の均衡の維持とルールメイキングの方法が重要になってくる。

第二の課題は「中所得国の罠」の回避で、多くのASEAN諸国はこれまでと違う発展戦略を模索する必要がある。そのためには人材育成、インフラ整備、セーフティーネットの構築が重要である。

ASEANの機能は安全保障と経済の二つだが、南シナ海をはじめとする安全保障での連携は難しいため、さしあたりASEAN経済共同体(AEC)による経済面での連携が中心となるだろう。AECによって、2020年を目指して関税撤廃が進む。非関税障壁の撤廃は15年以降の実質的な課題で、ミャンマーが議長を務める今年のASEAN関連会議が重要になる。タイプラスワンの動きも進むだろう。大陸部ではAECによって政治調整のメカニズムができるため、同地域での広域インフラ開発が進むことが期待される。

こうしたなかで日本は、経済連携では日本企業の生産ネットワークを効果的に動かすための東アジア包括的経済連携(RCEP)交渉と、21世紀型の通商分業の構築と日本の経済構造改革を進めるための環太平洋経済連携協定(TPP)交渉とを同時に進めている。安全保障政策では、沿岸警備の強化や豪州・インド・インドネシアなどとの安保対話や共同軍事演習によるネットワークの拡大に取り組んでいる。

今後は日本の官民で、ASEAN各国が「中所得国の罠」を回避するための取り組みを考える必要があり、次世代の経済政策を担うASEAN各国幹部との政策対話を強化すべきだ。

【国際協力本部、国際経済本部】