Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2014年7月31日 No.3187  「習近平政権の外交・内政の課題と今後の日中関係」 -昼食講演会シリーズ<第24回>/東京大学大学院法学政治学研究科教授 高原明生氏

経団連事業サービス(榊原定征会長)は4日、東京・大手町の経団連会館で第24回昼食講演会を開催し、東京大学大学院法学政治学研究科の高原明生教授から「習近平政権の外交・内政の課題と今後の日中関係」をテーマに講演を聞いた。講演の概要は次のとおり。

■ 習近平政権の特徴 ― 中国国内の政策論争

習政権は権力の集中を目指し、厳しい政治引き締めを行う一方、市場経済化を推進しながら文化大革命も一定評価し、ナショナリズムを強調する。また、ソフトな外交方針を対外的に示しつつハードな対外行動を取るなど、外交・内政ともに方針が不明確で、改革派か保守派か立場が一貫せず、相反するシグナルが入り混じって発信されている。

昨年11月の三中全会決定(共産党中央委員会の施政方針)で、従来にない広範な改革課題を掲げたのは、現指導部が政治の腐敗・汚職・権利濫用に対する国民の抗議に強い不安を持つ表れであるが、難しい改革は回避し問題の本質に迫っていないとも評価される。また、習主席直轄の安全保障や国防にかかわる新組織の設置、政敵の拘束や党籍剥奪など、政治腐敗の撲滅を掲げ基盤固めを進めるが、粛清で幹部の不満が高まるなど、体制の不安定化も懸念される。

政策をめぐる見解の不一致も目立つ。例えば総合的に国力が向上し、2008年の金融危機を早期に脱却できたなど、「中国モデル」が確立したととらえ、経済改革は不要とする主張がある一方、中国は社会矛盾を抱える発展途上国にすぎず、分配制度改革を進め、国有企業の独占・寡占体制を打破すべきとの意見もある。また、政治改革は一党支配や公有制という社会の根本を揺るがし内乱に陥りかねないと牽制する意見に対し、改革なくして経済改革は貫徹できないとの主張がある。

外交方針では、トウ小平が提唱した「韜光養晦」(才能を隠し低姿勢を保ち国際協調のもと国力が強くなるまで待つ考え方)を時代遅れととらえ、国力がついたので自己主張を強め、増えた海外権益を軍備拡張で守るべきとの主張に対し、これまで国際協調が国益をもたらしたのだから、実力を過信すべきではないとの意見がある。つまり、(1)保守派・国粋主義・強硬論者と(2)改革派・国際主義者・穏健論者――との間で対立が表面化し、保守的で攻撃性の強い言説が優勢な状況にある。

■ 相反する信号 ― 言動の矛盾

尖閣諸島をめぐる日中の衝突も、基本要因には中国の国力が伸張し海洋権益を求め進出したことがある。また、日本政府による尖閣購入に強硬な対抗策を取った背景には、党内に深刻な亀裂があるとみられる。

習主席が自身の外交の基本方針として、友好的協議のもと地域安定の実現を目指すと対外的に宣言するそばから、東シナ海における防空識別圏の設定、西沙諸島沖での資源掘削を開始するなど、はなはだしい言動の矛盾がある。

これは部門間連携の不足、つまり対外強硬的な立場を取る宣伝部、利益確保のため既成事実の形成を目指す軍部、友好的な外交部との間が協調せず、調整機能を持つ中央国家安全委員会がスムーズに運営されていないことがその背景にある。また、自己中心的な「大国」認識が根本にあり、言動が矛盾していること自体に気づいていない。

さらに政策目標自体が矛盾している。党内の統一や社会矛盾に対する国民の不満をそらすには、近隣国との闘争は有用であるが、近隣国との協力がなければ平和と繁栄を手に入れることはできない。また近海および西太平洋で中国が支配を確立するという長期目標の達成に向け、日本を押さえ米国の関与を排除して新たな東アジアの秩序を構築していくことを目指す者もいる。このような政策目標を同時に追求しようとする矛盾が相反する言動となるのである。

■ 日本はいかに対応するべきか

今後の日本の対応について、短期的には、力による現状変更の試みには屈しないことが重要である。仮に屈すれば南シナ海にも波及するとともに、共産党内の穏健派は壊滅することになる。そのため「挑発に乗らず、挑発せず」という姿勢で臨み、主権については外交交渉における「合意できないという合意」を目指すと同時に、近隣諸国と国際社会への働きかけを続けるべきである。

また中長期的には、国際的な規範を浸透させる努力をすべきである。すなわち、富国強兵からの脱却を図り、知識交流や留学等を通じた人材交流によって規範を共有化していくことが必要である。また、経済交流を活発化させるとともに、麻薬対策や海上安全にかかわる脅威等への対抗で協調し、戦略的な互恵関係の充実を図ること、同盟ネットワークを強化し、力の制約と均衡を目指すことが望ましい。また、これらの取り組みに実効性を与えるため、日米中対話を実現していく必要がある。

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