Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2015年1月8日 No.3207  対露経済制裁の現状に関する懇談会開催

経団連は12月18日、東京・大手町の経団連会館でロシア国内法制の専門家であるロンドン大学の小田博教授との懇談会を開催し、対露経済制裁の現状を聞くとともに意見交換を行った。
説明の概要は次のとおり。

■ 各国の対露制裁概要

対露制裁措置を講じている主要国は米国と欧州連合(EU)であり、カナダ、豪州、日本等は独自の制裁を発動している。米国はSDN(Specially Designated Nationals)リストに含まれる特定個人・法人の資産凍結、査証発給制限に加え、部門別措置であるSSI(Sectorial Sanctions Identifications)リストに含まれる特定個人・法人の資金調達制限も行っている。さらに、汎用技術の輸出や軍事技術の移転も制限している。

EUも類似の措置を講じているが、リストや制限範囲の面で相違点がある。EUは米国に比してロシアとの経済関係がより緊密であり、とりわけエネルギー分野では切っても切れない関係にある。そのためEUは当初、法人ではなく政治家など個人を対象とした資産凍結や査証発給制限等にとどめていた。しかし、2014年7月17日に発生したマレーシア航空機撃墜事件を機に、EUも態度を硬化させ、資金調達制限を含む広範な制裁強化に踏み切った。この結果、米国とEUによる制裁内容は収斂しつつある。

■ 制裁の適用範囲

米国による制裁においては、米国と連結点がある取引(米国の銀行を介した取引、ドル建て取引、所在国は問わず米国の個人・法人が関与した取引等)すべてが対象となる。留意すべきは、キューバやシリア、イラン等に対する制裁においては、米国との連結点の有無にかかわらず、制裁対象国とのビジネスを行う外国企業に制裁措置が適用されたのに対し、対露制裁においては少なくとも連結点がなければ対象とはならないということである。

なお、取引を促進・仲介する行為は制裁の対象となるため注意が必要であるが、これまで対露制裁の違反による刑事・民事罰に至った事例はない。

■ 対露ビジネスへの制裁の影響と今後の展望

EUでは制裁発動前に締結された契約は制裁の対象外としているが、米国では必ずしも明確ではない。例えばロシア最大の国営石油会社ロスネフチと米石油大手エクソンモービルの間で11年に締結された北極圏カラ海での石油共同開発プロジェクトは14年8月に油井掘削が始まったが、9月12日に発動された制裁強化によってロスネフチを含む5社がSSIリストに追加され、エクソンモービルは同事業からの撤退を余儀なくされた。

最近の通貨ルーブルの急落からも明らかなように、対露制裁は相当効いているように感じられる。制裁解除の適否については諸説散見されるが、ウクライナ東部における動向がカギを握るのではないか。なお、対露制裁の結果、いわゆる「バックフィル」(制裁発動により撤退した企業の穴埋めをすべく他企業が進出する行為)を懸念する向きもあるが、欧州企業は基本的に対露制裁を遵守しており、制裁を逆手にとってロシアビジネスを拡大しようとする行動はみられていない。

【国際経済本部】