Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2015年5月21日 No.3224  わが国の通商政策の方向性テーマに説明を聞く -貿易投資委員会

経団連は4月28日、東京・大手町の経団連会館で貿易投資委員会(勝俣宣夫委員長)を開催し、経済産業省通商政策局の赤石浩一審議官から、今後の日本の通商政策のあり方について説明を聞いた。説明の概要は次のとおり。

■ アベノミクスを通じた貿易投資環境の改善

リーマンショック、東日本大震災に端を発する六重苦((1)円高(2)高い法人税率(3)FTA締結の遅れ(4)労働規制(5)環境規制(6)電力不足)が日本を覆うなか、日本企業は海外投資を積極的に行い続け、昨年の日本の海外投資収益は過去最大となる一方、貿易収支は過去最大の赤字、経常収支は過去最小の黒字を記録した。

アベノミクスの一環として、日本のビジネス環境の改善に取り組んでおり、国内設備投資も上向きに転じるなどその成果は徐々に表れ始めている。日本企業の国内回帰が続くか否かは、六重苦の排除によりコストを下げることに加え、英国のシティ、オランダのフードバレー、デンマークのメディカルバレーのようなビジネスプラットフォーム構築を実現できるかにかかっている。

■ WTOと経済連携

国内の事業環境の整備とあわせて、世界全体の貿易・投資ルールづくりを通じ、日本企業が海外で稼ぐ力を維持・強化することも引き続き重要である。世界の通商システムの基盤は、WTOとその前身であるGATT(関税及び貿易に関する一般協定)が担ってきたが、2001年に開始したドーハ・ラウンド交渉は、先進国と新興国の対立により遅々として進まず、この15年間で成立したのは、税関手続の簡素・迅速化等を規定した貿易円滑化協定のみである。IMFや世界銀行と同様にWTOは、台頭する新興国を巻き込めずにいることから、改革が求められている。

WTOにおけるルール・メイキングが停滞するなか、各国はFTA/EPAの締結を加速しているが、各協定の内容が錯綜する「スパゲッティボウル現象」が発生し、企業活動の混乱を招いている。こうした状況を回避すべく、13年からTPP(環太平洋経済連携協定)、日EU EPA、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)、TTIP(環大西洋貿易投資パートナーシップ)といったメガFTA交渉が本格化している。

この1~2年は、日本の通商交渉の正念場である。メガFTAに加え、ITA(情報技術協定)や環境物品、TiSA(新たなサービス貿易協定)など有志国によるプルリ(注)交渉を日本がリードし、世界にシームレスな事業環境を構築していく。そのためには、企業・経済界の知見、活動が重要であり、官民連携をより密にしていきたい。

■ 今後の通商政策

日本企業のさらなる海外市場獲得のためには、日本企業の海外展開支援、インフラ・システム輸出、海外における資源供給確保等も戦略的に取り組んでいく必要がある。また、環境・高齢化・都市化などの世界的な共通課題が顕在化するなか、日本は課題先進国として、こうした社会課題の解決に向けて、課題設定やコンセプト構築などの段階から、日本企業の技術や強みが活かされるようなルールや国際的な標準づくりを官民連携して積極的に行っていかなければならない。

(注)プルリ(プルリラテラル)=任意で参加する複数国・地域間での合意の枠組み

【国際経済本部】