Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2015年7月23日 No.3233  提言「名古屋議定書に関する検討の視点」を公表

経団連の知的財産委員会企画部会(堤和彦部会長)は、政府において「名古屋議定書」の締結の是非をめぐって議論がなされていることから3日、提言「名古屋議定書に関する検討の視点」を公表した。

■ 名古屋議定書の概要と経緯

名古屋議定書は、2010年に名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)において採択された国際条約であり、「遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分(ABS、Access and Benefit-Sharing)」に関する規定が盛り込まれている。

ABSという利益配分の基本的な考え方自体は、生物多様性条約の目的の1つとしてうたわれており、遺伝資源の利用者が提供国から事前の同意を得たうえで契約を締結し、遺伝資源の利用によって生じた利益を提供国に配分するとの仕組みが示された。遺伝資源については「現実の又は潜在的な価値を有する、遺伝の機能的な単位を有する植物、動物、微生物その他に由来する素材」と記されており、地球上に存在するほぼすべての植物、動物、微生物を含むものとされる。多くの場合、利用側は先進国の企業や大学であり、提供側が途上国であることから、いわゆる南北問題を引き起こしやすい構図となっている。

このABSの仕組みをより具体的に示すことを目指したのが名古屋議定書である。わが国は現時点で名古屋議定書を締結しておらず、米国は生物多様性条約、名古屋議定書ともに締結していない。

■ 問題点・懸念点

名古屋議定書は、利益配分をめぐる極めて経済的な性質の強い条約であるが、他方で多くの問題点を含んでいる。そもそも「遺伝資源」や「遺伝資源の利用」など重要な概念についての定義があいまいなままであり、「派生物」「一般流通品」といったものが利益配分の対象になるか否かも不明である。また、過去の利用に遡って利益配分をすることができるという、いわゆる遡及効の有無についても不明確である。さらに、遺伝資源の利用に関し、提供国が規定したルールに従うとされているが、ルール自体は各国の判断で自由に定められることも大きな問題である。

■ 政府の受け止めと産業界の対応

名古屋議定書は、こうした多くの問題点が指摘される一方、わが国については2015年内の締結を目指すと閣議決定されているが、経済産業省を中心とする慎重派と環境省を中心とする推進派に分かれているのが実情であり、いまだ締結の目処は立っていない。産業界においては、いくつかの業界団体によって慎重な対応を求める意見書が公表されるなど、懸念の声が上がっている。

名古屋議定書は、定義等で不明な点や構造的な問題点なども多く、実際の産業・ビジネスに与える影響が予測できない以上、現段階において産業界として締結の是非について見解を示すことは困難である。そのため知的財産委員会では、いくつかの懸念点に対し、政府としての統一的な考え方を早急に示すよう、政府に求めることとした。

具体的には、(1)議定書における重要事項の定義等の明確化(2)議定書の適用による影響の公表(3)各国の対応の見通し(4)各国との連携・対話の見通し(5)政府としての対応――の5点を挙げている。これらに関する政府の統一見解が示されてから、産業界としての対応をあらためて検討したい。

【産業技術本部】