Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2015年12月10日 No.3250  日ロ関係の現状と今後の展望を聞く -日本ロシア経済委員会

講演する下斗米教授

わが国を取り巻く環境が大きく変化するなか、平和で安定的な国際社会の構築を図るとともに、アジア太平洋におけるビジネスを展開する観点から、日ロ経済関係を拡大・進化させることは極めて重要な課題である。

そこで、経団連の日本ロシア経済委員会(朝田照男委員長)は11月30日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、ロシア政治史の第一人者でプーチン大統領とも親交のある下斗米伸夫法政大学教授から、日ロ関係の現状と今後の展望について説明を聞いた。
説明の概要は次のとおり。

■ 急変する世界情勢

今日の世界情勢急変の中心に位置するのは、プーチン・ロシアである。有力経済紙フォーブスは「世界で最も影響力のある人物」に3年連続でプーチン大統領を選出した。

膠着するウクライナ問題のトーンダウンをもくろむプーチン大統領は、国連創設70年の今年、10年ぶりに国連総会で演説を行い、「イスラム国」(IS)への国際的な共闘を訴え、シリア空爆へと「ギアチェンジ」した。

プーチン大統領がギアチェンジしたのは、ロシアが地政学(Geopolitics)的には超大国であっても地経学(Geoeconomics)的にはエネルギー依存の強い大国にすぎないという現実を理解しているためである。事実、1バレル50ドル以下の油価下落局面において、政治的に打てる手は限られている。

ともあれ、ロシアのシリア空爆の動きに世界が呼応するかに思われたが、トルコによるロシア機撃墜を受け、プーチン大統領も対トルコ経済制裁など強硬姿勢を打ち出さざるを得なくなった。プーチン大統領とエルドアン大統領の関係はもともと悪くはなかったが、複雑な要因が錯綜した結果といえる。

■ イスラム過激主義へのプーチン大統領の対応

世界の政治家のなかで、イスラム過激主義の潮流の深刻さを最初に理解したのは、1990年代末期のプーチン首相(当時)である。プーチン首相は、民族問題として理解されていたチェチェンの本質を国際イスラム過激主義と看破し、アラブ世界の北端に位置するロシア連邦内ダゲスタン共和国にチェチェン・イスラム集団が侵入した際、迅速な掃討作戦を展開した。

その後、米国も2001年9月の同時多発テロを機に、アルカイダの潮流を理解し始めた。

■ ロシアの国際戦略と日ロ関係

ウクライナ情勢が依然流動的な一方、エネルギーの国際価格の急落やルーブル安、対露制裁をめぐる動きがみられる。

こうしたなか、プーチン・ロシアはいわば「脱欧入亜」、アジア・シフトを真剣に追求している。しかし、急変する世界情勢のなかで、プーチン大統領は戦略的な構想の実現よりシリアやトルコ等への戦術的な対応に追われているのが現状である。

中ロ接近がとみに指摘されているが、両国の協力関係は必ずしも順調なわけではない。東を向くロシアに対し、中国はむしろ「一帯一路」シルクロード構想のもと、西を指向しており、ベクトルが自ずと異なる。

ウラジオストクはじめ極東地域の開発についても、中ロ間で相当の温度差があることも踏まえ、日ロ関係を構想する必要がある。今後とも一層混迷を極める中東情勢に鑑みても、長期的に日ロ関係を改善することが、日本のエネルギー安全保障はじめ国益、さらにアジア全体の利益にかなうと考えるべきである。

【国際経済本部】