Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2016年3月3日 No.3260  シリーズ「地域の活性化策を考える」 -大学を核にした地域の活性化/橋本和仁・東京大学大学院工学系研究科教授/21世紀政策研究所

シリーズ「地域の活性化策を考える」の第4回は、橋本和仁・東京大学大学院工学系研究科教授「大学を核にした地域の活性化」。同氏は、プロジェクト「イノベーションの推進に向けて―ナショナルシステムの改革方策―」(2014年度)の研究主幹を務め、近く公表する予定の報告書「研究開発体制の革新に向けて」では、大学を育てることによって「尖ったサイエンス」から生まれる真のイノベーションを得ることができると主張している。

◆ ローカルイノベーション

地域の産業を地域のなかだけで考えると限界があります。ローカルイノベーションによって、地域を日本全国、世界につなげていけるかどうかがポイントになります。地域の得意とするところを日本全国、世界に広げていく、また、世界や日本各地の求めているものを地域の産業に情報として伝えていくことが重要です。

◆ 産業集積地を核としたクラスター形成

ローカルイノベーションの拠点を形成するためには、産業集積地を核として、そこに存在する企業ニーズを満たすことを目的に、産業界と大学・研究開発法人の連携を強化し、大学・研究開発法人の知恵と設備を産業界がフル活用できる環境を整備することが重要です。自動車産業が集積する愛知県、九州大学を中心とする水素エネルギー拠点などが、その代表的な事例です。

◆ 大学・公的研究機関を核とした地域のイノベーション拠点形成

また、大学や公的研究機関を核に、地域のイノベーション拠点を形成することも有効な手段でしょう。大学には、世界や日本につながることを得意とする人間が集まっていて、彼らをうまく使っていくべきです。

文部科学省では「国立大学経営力戦略」の1つとして、地域に貢献する取り組みを重点支援するとしています。例えば、三重大学は、三重県内のニーズを吸い上げた研究・教育に熱心に取り組んでいて、積極的に街なかに出てベンチャーや企業などの指導・相談に乗ったり、研究者と企業家をつないだりするなど、地域のイノベーション拠点として役割を十分に果たしている事例だと思います。

公的研究機関の優秀な研究者も一体的に活用すべきです。地方の工業試験場等は財政難で研究費は絞られ、その能力は必ずしも十分発揮されていません。

さらに、こうした地域の拠点同士が必要に応じて連携したり、専門分野によっては地域外の企業や大学・研究機関の研究者とのネットワークを広げたりなど、さまざまな可能性が考えられます。

◆ ICT化による地域産業の活性化

いまICTの活用によって地域の産業が活性化する事例があちこちでみられるようになってきました。徳島県上勝町の高齢者の生きがいとなっている「葉っぱビジネス」、沖縄県久米島の「地元野菜等の地産地消システム」、青森県五所川原市の「観光クラウドシステムによる観光客誘致」など、いずれもICTの活用によって、何かと何かをつなぐことで実現したものです。それぞれの地域のポテンシャルを具体的なかたちにしたキーパーソンの存在も重要です。大学人はそうしたことも得意です。

なお、大学や公的研究機関が、それぞれの使命をきちんと果たしていくことが大前提であることはいうまでもありません。

【21世紀政策研究所】

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