Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2016年3月10日 No.3261  シリーズ「地域の活性化策を考える」 -IoTで地方が変わっていく/森川博之・東京大学先端科学技術研究センター教授/21世紀政策研究所

シリーズ「地域の活性化策を考える」の第5回は、森川博之・東京大学先端科学技術研究センター教授「IoTで地方が変わっていく」。同氏は、プロジェクト「ビッグデータビジネスが描く未来」(2013年度)の研究主幹を務め、報告書「ビッグデータが私たちの医療・健康を変える」(14年9月)では、ビッグデータの利活用によって、エビデンス(根拠)に基づいた予防・先制的な個人化医療が進み、私たちのQOL(Quality of life)が格段に向上すると主張している。

◆ IT、ICTからIoTへ

技術は本物になるまでに時間がかかります。鉄道も電力も自動車も一度バブルがはじけて30年後に本格的な普及が始まりました。いまIT、ICTの技術もようやくこなれてきて、IoT(Internet of Things)と呼ばれる機会が増えてきました。いまはまだ先端のところを大企業中心に取り組んでいますが、これからはその裾野が広がり、誰もがICTを使うことができ、簡単にプログラムを組める時代になっていきます。ICTにとっては、よい追い風が吹いてきたと思います。

ICTの供給側からみれば、これまではGDPの10%を占めるにすぎない情報通信産業のなかの話でしたが、これからはGDPの残り90%を占めるそれ以外の産業がICTを使うようになります。そのためには、コンピュータのある部屋から出て、現場で顧客とコミュニケーションをしながら一緒に考え、新しいニーズを探していくことが重要になります。

ICTの需要側からみれば、ICTが単なるコスト削減のためのツールから、新しい価値創造ツールになることで意識が変わってきています。私も企業トップの会合等に呼ばれ、お話をする機会が増えています。また、企業のICT関係の部署も、従来のICTの維持・管理セクションに加えて、「ICTイノベーション」といったセクションを新設する動きが出始めています。つまり、IoTで事業が再定義されているのです。

IoTの普及は、じわじわ環境を変えていきます。20~30年後、私たちの生活は一見するとそれほど変わったとは思えないかもしれませんが、そういえば以前は違っていたと気づくような、緩やかであまり表には出てこない変化をもたらすように思います。それは、シリコンバレーの急激で派手な動きと違って、地道で地味な社会変化であり、日本が得意とするところではないでしょうか。

◆ 地方にこそ可能性あり

こうしたIoTについては、地方にとても大きな可能性を感じています。地方は、一般的に生産性が低いといわれますが、裏を返せばIoTを活用して生産性を上げる余地が大きいということです。地方には、そこにいないとわからないニーズがたくさんあります。しかも、地方では、コミュニティが密で異業種同士の仲がよい。例えばこの1月に島根県経営者協会で懇談した際、地元のペンキ屋さん、水道屋さん、ITソフト屋さんが皆なかよく話をしていたのが大変印象的でした。まさに、こうした環境こそ、IoTが展開していくためにはうってつけだと思います。

◆ 高等専門学校の活用

IoTを展開していくためには、IT技術者がまだまだ足りません。そこで、各地の高等専門学校をもっと活用し、IT技術者を養成してはいかがでしょうか。現場に密着した技術の展開は、高専にぴったりだと思います。

【21世紀政策研究所】

シリーズ「地域の活性化策を考える」はこちら