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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2016年4月14日 No.3266 真に効果の高い地震対策実現に向けて -東京大学の目黒教授から説明聞く/社会基盤強化委員会企画部会

説明する目黒教授

経団連の社会基盤強化委員会企画部会(伊東祐次部会長)は3月25日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、東京大学の目黒公郎教授から「間違いだらけの地震対策―本当に効果の高い地震対策を実現するには」をテーマに説明を聞くとともに意見交換を行った。説明の概要は次のとおり。

(1)わが国の防災/危機管理のあるべき姿

政府の試算によると、最悪の場合、首都直下地震で約95兆円、南海トラフの巨大地震で約220兆円の経済被害が見込まれている。しかし、少子高齢化と人口減少に伴う労働力の減少、財政の逼迫等が急速に進むわが国では、この規模の被害からの復興は事後対応のみでは難しい。発災までの時間を活用した事前対策で、発災時の被害量を復興可能なサイズまで減らすことが重要である。

(2)将来の被害を減らす事前対策と環境整備

現在のわが国では、脆弱な建物の耐震性の向上や災害リスクの高い場所から低い場所への人口誘導などが最重要だが、これらの事前対策を住民が自主的に行うインセンティブが少ない。例えば、公平の原則が守られていない(津波の危険性がまったく異なる海岸部と内陸部でのリスクの違い、地盤条件の影響、建物の耐震性などが適切に考慮されていない)現在の地震保険は、リスクコントロールに貢献しない。被災者生活支援制度など、事前の努力を前提としない事後支援制度は、将来の被害軽減効果がないことに加え、事後に莫大な財政措置が求められるうえ、事前対策として重要な耐震補強へのインセンティブを削ぐ。このままでは、大地震発生時に多くの建築物が倒壊し、これが延焼火災の原因にもなるなど、甚大な人的・経済的被害を発生させる。

(3)事前対策の防災効果と着実な推進に向けて

東日本大震災後のマスコミ報道などから、防波堤等の事前対策の効果が少なかったという印象を持っている人が多いが、これは間違いだ。岩手県の釜石港の湾口防波堤ありの場合となしの場合の津波シミュレーション結果からは、防波堤によって陸地への津波到達時間が約6分間遅延し、湾内への海水流入量の大幅な減少から、浸水深も遡上高も3~5割低下させた(なかった場合は観測値の1.4~2倍になった)ことがわかっている。

これらの効果により、津波浸水域内の死者・行方不明者率は約3%(1万8000余人/約62万人)となり、生存者率97%は過去の国内外の津波災害と比較して極端に高い。ちなみに宮古市田老地区の死者・行方不明者率は、明治三陸地震(1896年)では83.1%、昭和三陸地震(1933年)では32.5%、今回は3.9%であり、事前対策の効果が非常に高いことがわかる。

今後、わが国全体の防災力強化に向けて、時間別、担い手別、災害対応の目的別に分けた防災マニュアルの策定や防災/危機管理ビジネスの創造と育成が求められる。

【政治・社会本部】

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