Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2016年10月6日 No.3287  宇宙生命は存在するか―天文学からのアプローチ -国立天文台副台長・教授 渡部潤一氏/昼食講演会シリーズ<第32回>

経団連事業サービス(榊原定征会長)は9月8日、東京・大手町の経団連会館で第32回昼食講演会を開催し、国立天文台副台長・教授の渡部潤一氏から、「宇宙生命は存在するか―天文学からのアプローチ」をテーマに講演を聞いた。また講演に先立ち、文部科学省研究振興局学術機関課長の牛尾則文氏から、国立天文台も属している「大学共同利用機関法人」について説明を受けた。渡部氏の講演の概要は次のとおり。

■ 生命の材料はどこで生まれたのか

「地球以外にも生命は存在するか」という大きな謎への答えは、天文学の急速な進歩により10~20年以内には出るだろう。

生命を構成する有機物をつくる元素は恒星のなかで合成されている。星は「核融合反応」を起こして光り輝き、水素がヘリウムや炭素、窒素、酸素などの元素に変わる。これらの元素は恒星が爆発して死ぬ時にいったん、宇宙にばらまかれる。特に、超新星爆発では中心にできた鉄をさらに融合させ、鉄よりも重い元素を一気に生み出す。このようにして惑星や生命の元になる材料が宇宙に供給されている。月も地球も私たちも、前世代の星の欠片からできており、星の欠片はどこにでも存在している。

■ 地球のような水の惑星はあるか?

生命に必要な水も酸素が水素と結びついて生まれるため、どこにでもあるといえる。しかし、惑星に生命が存在するためには、恒星からの距離が適切で、表面に水が存在する適温環境(ハビタブル・ゾーン)に位置する必要がある。太陽系以外の恒星の周りにも惑星が発見されつつあり、国立天文台がハワイに設置した「すばる望遠鏡」が撮影に成功している。例えば、地球から約20光年の距離にあるグリーゼ581の惑星系には、ハビタブル・ゾーンに2つの惑星があることがわかっている。

■ 水があれば、生命は必ず発生するか?

水の惑星に宇宙生命が存在するかを確認するには、酸素など生命が存在する証拠(バイオマーク)を探せばよい。しかし、現在、これを観測できる望遠鏡はなく、建設中の口径30メートル超の大型望遠鏡(TMT)に期待がかかっている。宇宙生命の発見は、もはや時間の問題といっていい。

■ 生命は進化して、必ず文明を持つのか?

「生命は発生し進化して一定期間後には文明を持つのか」という問いに対して、答えはまったくの未知数である。しかし銀河系だけでも、太陽のような恒星は1千億個以上あり、どこかにわれわれと同じような知的生命がいても不思議ではない。天文学者は楽観論に立って、今も野心的に地球外知的文明探査を進めており、第2の地球候補に向けて電波の受発信を試みている。今後、比較的早い時期に生命の証拠や文明の証拠が見つかるかもしれない。そんな期待を込めつつ、夜空を見上げてほしい。

星空は人間が見ることができる最も広大な時空間である。いろいろな思いをはせることができる場であり、癒しの効用もある。人類が知的文明として大人になり、行政区や国境など関係なくグローバルに物事を見る視点を、星を見て養うこともできるだろう。

【経団連事業サービス】

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