Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2016年11月10日 No.3292  ストレスチェックを振り返る~今すべきことと今後に向けて<第3回> -面接指導実施上の留意事項/イオングループ総括産業医 増田将史

2015年12月から開始されたストレスチェック制度では、メンタルヘルス不調の前段階にある高ストレス状態の労働者が面接指導を希望した場合、医師による面接指導を実施することになっている。この面接指導についても、ストレスチェックと同様にプライバシー保護や不利益取り扱いの禁止が規定されている。

本稿では、職場でストレスチェック制度に基づく医師による面接指導を実施する際に留意すべき点について概説する。

■ 面接指導の判定基準

ストレスチェック指針には、面接指導の判定基準として「面接指導を受ける必要があると実施者が認めた者」とあることから、「高ストレス=要面接指導」ではない。運用上、高ストレス判定の受検者に一律、要面接指導と通知するので十分と誤解されがちだが、厚生労働省はそのような運用を容認していない。逆に高ストレス判定でも、実施者が面接指導は不要と判断さえすれば実施する必要はないが、ほかに情報がない場合は面接指導が不要と積極的に判断する根拠がないので、「高ストレス判定=要面接指導」として判定せざるを得ない。

面接指導の判定基準の精度を上げたければ、事業者から実施者に産業保健に関連する情報を提供し、実施者がそれを加味して判定できるようにすべきであり、そのためには職場の状況を把握している産業医が実施者として関与するのが望ましい。

■ 面接指導担当医

面接指導は実施者と異なり、医師が実施する必要がある。産業医による実施が望ましいとされているが、メンタルヘルス対応を不得手とする等、対応してもらえない場合は別途、面接指導担当医を確保しておく必要がある。ストレスチェックを受託する外部機関(EAP、健診機関等)による面接指導医の紹介サービス等の利用も考えられるが、1回当たり数万円が相場となってきているため、件数によってはメンタルヘルス対応にたけた産業医との正式契約等、検討すべきと思われる。

■ 面接指導の申出

面接指導の申出窓口の明確化も求められており、会社の人事部門で構わないが、申出の敷居を下げるという点では産業医や保健師等が窓口となるのがより望ましいとされている。ただし、法令上、面接指導を申し出た時点で、会社に個人結果を提供してもよいこととされていることから、個人情報の取り扱いについて事前に説明し、トラブルにならないようにする必要がある。

■ 面接指導の勧奨

労働者の同意に基づきストレスチェック結果を把握している場合を除き、事業者からは面接指導を受けるように労働者に勧奨することはできず、実施者、実施事務従事者のみ可能とされている。面接指導は法令上、高ストレス判定であることが要件とされているため、勧奨に際して高ストレス者か否かを把握する必要があり、個人のストレスチェック結果の(部分的な)把握につながるからである。

なお、事業場の産業医が実施者を兼務しない場合、事業場内にストレスチェック結果を把握して面接指導の勧奨ができる医療職がいないため、高ストレス状態のまま放置されてしまう。これでは、当該事業場のメンタルヘルス対策にストレスチェックが寄与しないこととなる。

■ 就業措置の実施

医師による面接指導の後、当該医師から就業に関する意見を聞き、就業措置を実施することが事業者に求められている。企業の人事労務担当者から、「面接指導を実施した医師から対応に苦慮する内容の就業意見が出てきて困っている」旨の声をしばしば耳にする。面接指導対象者に対して雇用契約内容を逸脱した過度な配慮等を求める意見が出るのは、職場復帰の際に提出される診断書に困惑させられるのと同様のパターンであるが、そのような意見にすべて従わなければならないわけではない。

労働安全衛生法には、就業措置の必要があると事業者が認める場合に、その労働者の実情を考慮して実施するものとされている。ストレスチェック指針には「あらかじめ当該労働者の意見を聴き、十分な話し合いを通じてその労働者の了解が得られるよう努める」という過程も示されている。「対応に苦慮」する就業意見の提示背景等を確認し、「職場内で実施可能な対応」を決定すればよい。

また、厚生労働省のマニュアルには、「面接実施者は(中略)高ストレスの原因について詳細に把握して職場内で実施可能な対応を優先して促す観点で面接指導に当たることが望ましい」という記載もあることから、人事労務担当者は面接指導担当医への情報提供や、意見聴取に際しての意見交換等の機会を持つよう努めるべきと考えられる。

面接指導実施上の留意事項

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