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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2016年11月17日 No.3293 「人工知能の現状と展望」 -産総研の辻井人工知能研究センター長が常任幹事会で講演

講演する辻井氏

経団連は10月31日、東京・大手町の経団連会館で常任幹事会を開催し、産業技術総合研究所(産総研)の辻井潤一人工知能研究センター長から、「人工知能の現状と展望」をテーマに講演を聞いた。講演の概要は次のとおり。

■ 第2の産業革命

人工知能の活用は第2の産業革命と呼ばれる。第1の産業革命では、肉体作業の機械化が行われた。第2の産業革命では、人工知能の活用により、判断や予測といった知的作業も機械化されることになり、47%の仕事が人工知能に置き換わるともいわれている。そのため、今後、労働市場が大きく変化する可能性がある。

人工知能研究はこれまで米国の巨大IT産業が主導していた。自社が持つサイバー空間の膨大なデータを活用し、ビジネスへとつなげていた。しかし、この5年で状況は様変わりし、ビジネスモデルの多様化から、サイバー空間の外にあるデータ(生産・流通・医療等に関するデータ)が重視されるようになり、さまざまなデータを持つ日本企業が重要な位置づけとなった。

当センターとしては、人工知能の研究者を集積し、産業界等のユーザーと緊密に連携することで、実世界に埋め込まれる人工知能、人間と協働できる人工知能の開発を行っていきたい。

■ 人工知能の2つの流れ

人工知能には、「人間に迫る」「人間を超える」という2つの流れがある。

必要なデータを集め、解釈し判断する作業は、これまで人間に委ねられていたが、それを人工知能に置き換えることが可能になる。例えば、医療の現場において、患者にどのような薬を出せばよいか、人工知能が過去の患者データをもとに示せるようになる。人工知能は、まさに「人間に迫る」能力を持つことになる。

また、人工知能は、発達した計算機能を持つため、データから規則性を見いだし、最適解を提示する能力が人間よりも優れている。人工知能ならば、熟練者の勘で行われていたことも含めて実現可能となる。例えば、人間では扱いきれない膨大な患者データからでも、規則性を見いだし、最適な治療を示せるようになる。人工知能は、まさに「人間を超える」能力を持つことにもなる。

■ 実世界への応用と人間との協働

現在、人工知能を実世界に応用するため、囲碁、自動運転、バラ積みピッキング(バラバラに積まれた工具等をつかむ作業)、画像認識などの分野で研究が行われている。特に囲碁については、人工知能がプロ棋士に勝利するところにまで至っている。囲碁はすべての情報が視覚化される「完全情報ゲーム」であるため、人工知能による判断が優れる。

しかし、実世界にはデータ化できない情報が大量に存在している。データ化されない部分の情報や変化について、人間が容易に把握できても、人工知能ではそうはいかない。人工知能は量から物事を判断する知能であるのに対し、人間は質から物事を判断する知能である。そのため、質の高いサービスの提供に向けては、人間の大域的で質的な理解と、人工知能の量的な理解の融合が欠かせない。

【総務本部】

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