Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年1月1日 No.3298  今後の採用選考のあり方を聞く -日本型雇用を前提として最善策の模索を/立命館大学の海老原客員教授から/雇用政策委員会

経団連の雇用政策委員会(岡本毅委員長、進藤清貴委員長)は11月30日、都内で会合を開催し、立命館大学経営学部の海老原嗣生客員教授から「日本型一括採用を考える」をテーマに講演を聞くとともに意見交換を行った。講演の概要は次のとおり。

■ 日欧の採用選考基準の違い

なぜ、日本では毎年のように就職問題が注目されるのか。それは、入社の段階で能力やスキルを明確に求めていないからである。欧州では職務を明確にし、必要な能力の有無を採用の基準としているが、日本では入社後に職務を柔軟に決定する。人間性、基本的な学力、社風との適合性などを基準としていることから、いくらでも早期化が可能となる。

採用基準が不明瞭なことが問題であるとの指摘もあるが、欧米型のデメリットを十分理解していないことが多い。欧米型の採用を実現するためには、職業訓練のための公的インフラを整備せねばならず、職業訓練数を市場ニーズにあわせるため、幼少期から強制的に将来の振り分けがなされる。また、特にホワイトカラーにおいて、長期間のインターンシップにおける企業実習が必要となっている。こうした点はあまり知られていない。仏独では、インターンシップがあまりにブラック化したためデモが起こり、規制強化がなされたほどである。

■ 欧米型雇用の不都合な真実

欧米型雇用では、人員に欠員が生じると、外部市場から中途採用する。しかし、多くの場合、募集プロフィールに合う人材は同業種内での引き抜き合いとなるため、なかなか欠員が埋まらない。他方、日本型雇用では、代替できる人材を社内の下位層から抜擢して補充することが多い。抜擢された人材のポストの空席は、さらにその下位層から抜擢されるため、最終的に新卒レベルに大量の欠員が生じる。このため、春季一括採用が可能となる。

フランスでは、学歴に基づく資格により年収が決まる。カードルと呼ばれる経営管理層は年収600万円程度から始まり、際限なく年収は上がる。他方、高専・短大卒レベルの資格であれば年収350万円程度で、大卒の一般的な職務でもピーク年収が500万円程度である。一生同じ仕事を行うのが前提のため、社会階層の固定化が生じている。フランスの中間層は非常に疲弊しているのが実態であり、イギリスのEU離脱問題やトランプ現象は、この階層社会に起因しているとも考えられる。欧米型雇用にシフトすべきと主張する人は、こうした不都合な真実を明らかにしていない。

■ 遵守可能性の高いスケジュール

日本では選考開始時期に注目が集まるが、学生への負担を考えれば、実は採用面接よりも会社説明会の方が拘束時間は長く、学業への阻害が大きい。ウェブでの周知が主流の現在は、就職ナビサイトのプレエントリー時期をコントロールする方が効果的である。

経団連が倫理憲章で定めていた広報開始12月、選考開始4月は、抜け駆けが少ない合理的なスケジュールだった。私は、12月15日を広報開始にするのが最もよいと考えている。プレエントリー時期をコントロールすることで、12月までの学業阻害はほぼなくなる。15日以降は人気企業による合同説明会が始まり、年末以降は冬季休業、その後は大学の後期試験にあたり学生が集まらず、結果、抜け駆けが難しくなる。

あとは、就職ナビサイト開設前のワンデーインターンシップの時期や対象にルールを設けることで、抜け駆けはさらに減らせる。これで学生の春休み期間中に説明会が集中し、学業阻害も減少する。日本型雇用を前提に、最善の採用方法を模索していくことが重要である。

【労働政策本部】