Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年3月2日 No.3306  「国立大学法人の現状と課題」 -国立大学協会の山本専務理事に聞く/教育問題委員会企画部会

経団連の教育問題委員会企画部会(三宅龍哉部会長)は2月8日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、国立大学協会の山本健慈専務理事から国立大学法人の現状と課題について説明を聞くとともに意見交換を行った。

■ 国立大学法人の基盤的経費

まず、山本氏は「国立大学が平成16年度に独立法人化して以来、効率化を求められた結果として減少し続けてきた国立大学法人運営費交付金が、2016年度は前年度同額(1兆945億円)と下げ止まりし、17年度は25億円増額する見通しである。これは、大学側から優秀な若手の常勤教員の確保や老朽化した設備・施設の更新などが必要であることを文部科学省に粘り強く訴え続けた成果であり、後押しをしてくれた経団連にも感謝したい」と述べた。そして、来年度予算案の主な事項として、(1)新たに創設された「国立大学機能強化促進費」などによる各大学の強み・特色を生かした機能強化(2)付属病院の機能強化(3)大学改革を先導する「指定国立大学法人」への支援や数理・データサイエンス教育の強化(4)授業料減免枠の拡大による意欲と能力のある学生への修学機会の確保――などを説明した。

■ 官民協力による研究資金の拡充

他方、文部科学省が主管する競争的研究資金である科学研究費の予算額減少については、「大学における科学的基礎研究の後退に直結する」と指摘。また、高等教育機関に対する日本の公財政支出自体が、OECD加盟国のなかでも平均を大きく下回っていることを指摘し、その拡充を求めた。一方で、日本の民間企業が大学に投じる研究資金の割合は、ほかの主要国と比べて低いことにも言及し、「政府の未来投資会議でも産学連携を強化し、企業から大学・研究開発法人への投資を今後10年間で3倍に増やすことを目指す方針が出されている。オープンイノベーションの一環として、産業界の協力にも期待したい」と訴えた。

■ 入試改革の進捗状況

続いて入試改革については、「大学は、中央教育審議会答申等において重要性が指摘されている3つのポリシー(図表参照)を整備したうえで、各大学のアドミッション・ポリシーに基づいた入試改革を推進し、個々のディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシーに沿って学修を進めることができる学生を選抜すべきである」と述べる一方、現在国立大学が実施している推薦入試やAO入試について「ユニークで積極的な学生が入学してくるのは間違いないが、反面、そのために膨大な時間と人手がかかっている。そうした優秀な学生は通常入試でも選抜できるのではないかという意見もあり、入試全体としての費用対効果のバランスを模索していく必要がある」と指摘した。

3つのポリシー
ディプロマ・ポリシー各大学が、その教育理念を踏まえ、どのような力を身に付ければ学位を授与するのかを定める基本的な方針であり、学生の学修成果の目標ともなるもの
カリキュラム・ポリシーディプロマ・ポリシーの達成のためにどのような教育課程を編成し、どのような教育内容・方法を実施するのかを定める基本的な方針
アドミッション・ポリシー各大学が当該大学・学部等の教育理念、ディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシーに基づく教育内容等を踏まえ、入学者を受け入れるための基本的な方針であり、受け入れる学生に求める学習成果(学力の3要素※)を示すもの

※ (1)知識・技能 (2)思考力・判断力、表現力等の能力 (3)主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度

■ 課題と将来ビジョン

最後に、国立大学の喫緊の課題として、社会人の学び直しのためのプログラムの拡充や、優れた外国人留学生の受け入れ体制の整備などを挙げるとともに、大学のガバナンスについても「学長が教学、経営の責任者として強いリーダーシップとマネジメント能力を発揮する必要がある。今後の大学経営を考えた場合、アカデミズムにリスペクトがある人材ならば、アカデミックキャリアの有無にかかわらず、学長として活躍できるようにすべきである」と述べ、産学間の人材交流の促進を求めた。

■ 大きくなる大学の役割

引き続き行われた意見交換では、経団連側からの「少子化による学生数減少についてはどう考えるか」との質問に対し、山本氏は「国全体で考えると、人口減少社会では一人ひとりの生産性を高める必要があり、大学に限らず教育の役割は今後ますます増していく。他方、大学間の教育連携を推進することで、規模の小さい大学でも多様な学生と交流する機会を確保することが重要である」と答えた。

【教育・スポーツ推進本部】