Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年4月13日 No.3312  「個人消費の低迷の背景にある生活者意識の変遷」 -三菱総研政策・経済研究センターの阿部淳一副センター長から聞く/経済財政委員会経済政策部会

経団連の経済財政委員会経済政策部会(橋本法知部会長)では、有識者からさまざまな切り口で個人消費の動向についてヒアリングを行い、消費喚起策を検討することにしている。そのキックオフとして3月15日、三菱総合研究所政策・経済研究センターの阿部淳一副センター長から、主に若年層と女性の生活者意識の変遷等について説明を聞くとともに意見交換を行った。説明の概要は次のとおり。

■ 「何となく不安な時代」が続く

三菱総研では、東日本大震災以降、毎年6月に全国3万人を対象とした生活者意識に関する調査を実施している。

2011年から16年にかけて、将来の生活を「とても不安」と感じる比率は上昇しており、30~40歳代の女性の単身層が全体を底上げしている。この5年間で、「見えないリスク」へと不安意識の構造が変化しており、「何となく不安な時代」が到来した。

暮らし向き向上感も力強さを欠くなか、生活者は必要性を軸に賢い消費を行うことがニューノーマルとなると予見される。

■ 若年層で広がる「無気力・あきらめ派」

若年層においてモノに対する関心の低下と関心領域の狭まりと集中化がみられる。

今や若年層の90%が、ゆとり世代(1987年生まれ以降)である。この世代は生まれた時から経済の低迷に直面しており、人生の成功のかたち、いわゆる幸せモデルが多様化・不透明化している。

日本人の価値観を7つに分類した時、ワーク・ライフ・バランスを重視し、積極的に消費も行う「積極派」が約10%いる一方で、リスクを取ることに消極的な「無気力・あきらめ派」が約20%と最大勢力となっている。特に若年層の男性を中心に「積極派」が減り、「無気力・あきらめ派」が増えている。

インターネットの普及により情報の共有化が進み、横並び意識が強まった。若年層の志向は変化から安定に向かい、保守化が進んでいるのではないか。

「積極派」がより消費を行うことができる環境を整備するとともに、日本企業には若年層を引きつける商品・サービスを生み出すことが求められる。

■ ワーキングシングルは実質志向を強めている

かつて女性はファッション、化粧品、旅行といった市場を主導していたが、現在ワーキングシングルの消費の落ち込みがみられる。特色として、機能性や素材のよさを求める実質志向が強まっている。

また、未婚化、晩婚化の進展を背景として、女性も老後の備えのため貯蓄を行うという回答が多くなっている。

他方、親と同居または親からの家計援助を受け、いわゆる「パラサイト消費」を行うワーキングシングルが一定数いる。企業側には、こうした実態を踏まえ、需要創造に向けた努力が必要である。

■ ワーキングマザーとDINKSによる消費拡大の可能性

正規雇用のワーキングマザーは、時間にゆとりがない。その一方、ワーク・ライフ・バランスを重視し、時短家電の使用により時間を創出しながら、家事等の徹底的な効率化を図っている。あわせて、夫や親からのサポートを得て、育児を続けているという側面も大きい。今後は、三世代消費が牽引役となる可能性もあるのではないか。

他方、DINKSは、時間的にも経済的にもゆとりがあり、コト消費の牽引役である。活動領域は、今やハイキングや登山といった「シニア」の活動領域にも広がっている。あわせて、夫の家事参入の進展に伴い、新たな需要拡大が見込まれる。

【経済政策本部】