Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年6月22日 No.3320  セミナー「『パリ協定特別作業部会ボン会議』報告」 -21世紀政策研究所が開催

有馬研究主幹

竹内研究副主幹

21世紀政策研究所は5月25日に経済広報センターとの共催により大阪市内で、また6月1日には東京・大手町の経団連会館で、セミナー「『パリ協定特別作業部会ボン会議』報告~温暖化対策の最新国際動向」をそれぞれ開催した。

昨年の11月に発効した地球温暖化対策の国際枠組みであるパリ協定については、2020年からの実施に向けた詳細ルールの策定がパリ協定特別作業部会で進められている。5月に開催された同特別作業部会ボン会議に、21世紀政策研究所の有馬純研究主幹(東京大学公共政策大学院教授)と竹内純子研究副主幹が参加し、各国の政府関係者等との意見交換を行った。

同セミナーでは、有馬研究主幹が、米国トランプ政権のパリ協定離脱をめぐる動き等の最新の国際動向およびボンでの温暖化交渉の現状について報告した。なお、これに加え1日のセミナーでは、竹内研究副主幹から、ボン会議に先立って開催されたウィーン・エネルギー・フォーラムへの参加も踏まえた気候変動問題におけるビジネスチャンスについて説明した。有馬研究主幹の報告の概要は次のとおり。

■ トランプ政権のパリ協定離脱をめぐる動き

トランプ大統領は、公約であるパリ協定のキャンセルについて、大統領就任後は態度をはっきりとしてこなかった。政権部内で、パリ協定離脱派と残留派の意見が鋭く対立していたためである。離脱派は「選挙公約を守るべきだ」「国内の化石燃料資源を最大限活用するというトランプ政権のエネルギー政策と矛盾する」「パリ協定では目標値の引き下げは禁じられている」と言い、一方、残留派は「パリ協定離脱は米国の外交政策上の国益を害する」「パリ協定に残留しても目標値を見直せば実害はない。そもそも目標値に法的拘束力はない」「欧州諸国との貿易、防衛その他の交渉においてパリ協定残留は材料になる」と主張していた。

そのなかでも特に大きな争点は、野心を高める方向での目標値の見直しを想定したパリ協定4条11項の解釈として、「目標値を下方修正できるか否か」である。ホワイトハウスの法律顧問は「引き下げの見直しはできない」とし、この解釈がトランプ政権のパリ協定離脱に大きな影響を与えているとみられる。他方、1990年代から温暖化交渉に一貫して関与してきた元国務省法律顧問は「見直しできる」としており、考えが対立するなかでの離脱に向けた動きであった。

■ トランプ政権とG7、G20プロセス

今年のG7議長国イタリアとG20議長国ドイツは、G7、G20プロセスを通じてパリ協定に基づく温暖化への取り組みの強化を打ち出したいと考えていたが、米国でパリ協定に対し極めて冷淡な見方を持った政権が誕生したことで、作戦の練り直しを強いられた。5月のG7サミットでは、パリ協定をめぐり米国とその他の国の意見は一致せず、共同声明も双方の立場を両論併記した異例のものとなった。

■ 米国のパリ協定離脱の国際的な影響、日本へのインプリケーション

パリ協定離脱による国際的な温暖化対策議論での米国の存在感の低下は、パリ協定の詳細ルール策定交渉における途上国の発言力の強まりや、EU等を中心とした原理主義的議論の高まりを招く懸念がある。また、米国が「パリ協定のもとでは目標値の引き下げは不可」との解釈に基づいてパリ協定を離脱した場合、日本の目標値をめぐる今後の議論にも悪影響を及ぼすおそれがある。

米国のパリ協定離脱にかかわらず、日本はパリ協定のもとで努力するとの姿勢を堅持しつつ、米国とのエネルギーコストの格差のさらなる拡大に十分留意した対応をこれまで以上に真剣に考えなければならない。

■ ボン会議の状況と温暖化交渉の今後

パリ協定は、限られた時間の厳しい交渉のなかで取りまとめられた妥協の産物であり、難しい論点は、今後策定される詳細ルールに先送りされている。パリ協定を「法律」とすれば、詳細ルールは「政令・省令」にあたるものである。これがなければパリ協定を実施に移すことができないし、パリ協定が有効に機能するかどうかは今後の交渉次第である。

今回のボン会議は、詳細ルール策定の議論は始まったばかりの状況であり、先行きは楽観できない。ただし、COP22で設定された詳細ルール策定のタイムライン(2018年合意)は、予想以上に早かったパリ協定の発効を踏まえた前倒しのものであり、1年程度の先延ばしはあり得ると考えている。

【21世紀政策研究所】