Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年7月20日 No.3324  ワシントン・リポート<3> -インサイド・ベルトウェイでラストベルトの声を聴く

ワシントンDCは、高速道路I-495(通称ベルトウェイ)に囲まれていることから、インサイド・ベルトウェイと呼ばれる。米国諸州を訪問し「ワシントンから来た」と言うと、相手の顔色が曇ることがある。多くのアメリカ人にとって、インサイド・ベルトウェイは特殊な場所で、「自分の住むここが本当のアメリカだ」という声をよく聞く。

「ラストベルト」(錆びた工業地帯)は、かつて鉄鋼業などの重厚長大型産業で栄えたイリノイ、インディアナ、ミシガン、オハイオ、ペンシルベニアなどの諸州を示し、グローバリゼーションで産業構造の転換を迫られ衰退し、人口減少や犯罪の増加に悩まされてきた街も多い。ラストベルトの人たちのインサイド・ベルトウェイの既成勢力に対する怒りや将来への不安が、トランプ候補を大統領に押し上げたともいわれている。

実は、ラストベルトのなかにも、ペンシルベニア州ピッツバーグのように、鉄鋼の街からの再開発を成し遂げ、医療やヘルスケア関連をはじめ多様なビジネスで繁栄している所がある。他方、オハイオ州ヤングスタウンのように、再生に苦悩している街もある。

7月11日、米国事務所では、このヤングスタウンに生まれ育ち、現在は同州のコロンバスでコンサルタントとして活躍しているデービッド・マイハル氏を招き、ラストベルトの視点から、トランプ人気の背景と実態、中間選挙の見通し、さらにはトランプ大統領再選の可能性などについて説明を受け意見交換した。マイハル氏は、父親が兄弟と2人で始め、現在は30人の従業員を抱えるヤングスタウンの町工場に生まれ、鉄鋼都市として栄えたころの17万人の人口が8万人に減り、治安も悪化していく状況をみてきている。その後、ロブ・ポートマン上院議員(元USTR代表)やミット・ロムニー大統領候補の選挙顧問を務めた後、トランプ陣営に飛び込み大統領誕生に貢献した。

マイハル氏によれば、トランプ支持者は、伝統的共和党員、共和党保守派、独立系、さらには民主党員の一部(トランプ・デモクラッツ)からなり、政権成立から半年たっても中西部での人気は衰えていない。特に、トランプ・デモクラッツの民主党に対する失望感は根強いようだ。インサイド・ベルトウェイでは、政権発足当初から、トランプ政権の短命を予想する声が聞かれたが、ラストベルトの雰囲気では、現在の経済状況が続く限り、トランプ大統領が中間選挙を乗り切り、再選される可能性も十分あるとのことだった。

インサイド・ベルトウェイのシンクタンクでは、ラストベルトの状況はグローバリゼーションのもとでの技術革新などによるもので、TPP離脱の経済合理性は低いとの議論をよく耳にする。他方、ラストベルトでは、グローバリゼーションが失業を増大させ労働者を貧しくしたとのパーセプション(認識)が根強いといわれる。かつて日米貿易摩擦で経験したように、パーセプションを払拭するのは容易ではないが、地道で粘り強い取り組みが必要だと痛感した。

(米国事務所長 山越厚志)