Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年9月14日 No.3330  IASBの鶯地理事から国際会計基準をめぐる最近の動向を聞く -金融・資本市場委員会企業会計部会

説明する鶯地氏

経団連は8月23日、東京・大手町の経団連会館で金融・資本市場委員会企業会計部会(野崎邦夫部会長)を開催し、国際会計基準審議会(IASB)の鶯地隆継理事から、国際会計基準をめぐる最近の動向を聞くとともに意見交換を行った。概要は次のとおり。

■ 国際会計基準をめぐる最近の動向

秋以降にIASBで議論されるテーマのうち、わが国企業の関心が高い(1)のれんの会計処理(2)段階損益の表示(基本財務諸表プロジェクト)――の2つについて紹介する。

IFRS(国際財務報告基準)第3号「企業結合」の適用後レビューに関するフィードバック文書を受け、IASBではリサーチ・プロジェクトとして、「too little, too late」(のれんの減損損失のタイミングが遅すぎる、また、その金額が少なすぎるという懸念)への対応を議論している。

具体的には、年次の減損テストを減損の兆候があった場合に限定する「減損会計の簡素化」で対処することが検討されているが、これだけでは対応が不十分ではないかと疑問を持っている。

「基本財務諸表プロジェクト」では、各企業が独自に定義した業績指標であるAPM(代替的な業績指標)の多用が損益計算書の比較可能性を損なっており、段階損益の表示に関してIFRSが何らかの要求をすべきかどうかの議論が行われている。

具体的には、比較可能な基準となるEBIT(利息および税引前利益)の表示を要求するとともに、経営者が経営管理などに活用するMPM(経営者業績指標)をAPMに代わり段階損益として表示し、その説明をすることを要求すべきかどうかが検討されている。この議論の結果は、2018年に討議資料または公開草案として発表される予定である。

<意見交換>

意見交換では、野崎部会長が「のれんの償却のIFRSへの再導入の議論を避け、減損会計の簡素化に議論を集中する進め方は納得しがたい」と発言するとともに、石原秀威部会長代行が「のれんの会計処理は、明らかに企業行動に影響を及ぼしており、投資の回収可能性が適切に評価され、企業価値評価も適切に行われるよう本質的な議論を行ってほしい」と強調した。

このほか出席者からは、「買収によるシナジー効果は、買収したことだけで発現するものではなく、買収後の人材の派遣など、さまざまなリソースの投入を通じて初めて発現するものである。買収後に何のリソースも投入しなければ、のれんは市場競争を通じて徐々に消滅していくと考えるのは自然である」との意見や、基本財務諸表プロジェクトに関して「財務諸表における比較可能性とは何かという本質論から議論すべきだ」などの意見があった。

鶯地氏からは「のれんを償却しない『減損のみのアプローチ』では、景気悪化局面でのれんの減損が増えて、より一層、景気を悪化させる増幅効果を有する点でも問題があり、この点も踏まえた検討が行われるべきである」などの見解が示された。

【経済基盤本部】