Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年10月5日 No.3333  ワシントン・リポート<12> -米シンクタンクがポピュリズムの源流を欧州に探る

「この10年は欧州あるいは欧州共同体にとって散々な10年だった」という言葉で始まる報告書がある。その名も「Europe's Pressure Points(欧州のツボ)」。米国を代表する保守系シンクタンクの1つ American Enterprise Institute(AEI)で外交調査フェローを務めるダリバー・ロハク氏が取りまとめたもので、9月27日に記念のセミナーが開催された。

報告書によれば、2008年リーマンショックに端を発する経済危機は大西洋を越えて伝播し、ユーロ経済圏に深刻な影響を与えた。経済回復には米国よりも手間取る一方、中東、北アフリカの不安定さから、亡命希望者や移民が急増し、15年には難民危機が激化した。これらは政治を揺るがし、特にポーランド、ハンガリー、ギリシャなどにおいて、民主主義や国際秩序を重んじる中道右派や中道左派ではなく、左右双方の権威主義的ポピュリスト政党が得票を増やし政府をコントロールしてきた。レファレンダム(国民投票)を重視し、そのもとに憲法を含む統治機構やメディアまで勢力下に収めようとする動きさえある。

加えて、欧州で政治、軍事の面で多大な影響力をもってきた英国が、まさにレファレンダムでEU離脱を決めたことが欧州の不確実性を高めるなか、ウクライナ侵攻に象徴されるように勢力拡大をねらうロシアが、欧州のポピュリスト政党とも「敵の敵は味方」の論理で手を組んでいる。

トランプ政権誕生後、ワシントンDCの法律事務所で、スペインの国会議員から欧州議会議員を経験し所属弁護士となった人物に、英国のEU離脱とトランプ現象の共通性を尋ねたところ、「欧州の方が複雑だ」と不愉快そうに答えたことを思い出した。

トランプ現象の背景として、ラストベルトの経済低迷、貧困層の怒り、ミドル・クラスの不安、移民の増加とそれへの反発などが指摘されており、欧州の状況との共通項も指摘できる。その意味でポピュリズムの源流は欧州ともいえる。しかし、一つ一つの問題の複雑さと深刻さは違うように思える。病気に例えるならば、米国の方が、良くも悪くも、発症しやすいシステムと国民性をもっているのかもしれない。

ロハク氏は、報告書のなかで、「経済の自由化、構造改革、米国の積極的関与などが、欧州に蔓延するポピュリズムに終止符をもたらす保証はないが、ポピュリズムがおのずから消滅していく兆候はさらにない」と結論づけている。

翌日、キャピトル・ヒルに下院の外交委員会スタッフを訪ねた。面会に応じたスタッフは、民主党サイドながらTPPには理解を示し、「日本がTPP11をまとめれば米国は戻るか」との質問には、「少なくとも、そうした動きに反対することは考え難い」との反応だった。共和党か民主党かという垣根よりも、基本的には政策軸で議論してきた「これまでの民主主義」と、理性よりも感情に動かされる「新しい民主主義」との相克があるように思えてならなかった。

(米国事務所長 山越厚志)