Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年10月26日 No.3336  21世紀政策研究所がセミナー「文在寅政権の現状と諸政策の見通し」を開催

21世紀政策研究所(三浦惺所長)は9月29日、セミナー「文在寅政権の現状と諸政策の見通し」を開催した。

韓国では文在寅政権の発足から5カ月が経過し、主要閣僚人事や政策の枠組みが公表され、本格的な政権運営が始動した。そこで、同研究所では、韓国プロジェクトの深川由起子研究主幹(早稲田大学教授)を座長として、パク・チョルヒ・ソウル大学国際大学院長、イ・ドゥウォン延世大学教授の参加を得て、文在寅政権が掲げる政策の実現可能性と今後の日韓関係について議論した。

■ 文在寅政権が直面する5つの問題

冒頭、深川研究主幹が韓国の抱える構造的な課題について解説。「保守」対「革新」といった地政学的・社会学的な分断リスクや、従来の政府・財閥主導による成長の限界、内需不振の構造化などに言及した。

こうしたなか文在寅政権の掲げる政策が日本の民主党政権時代の政策に酷似しているとし、安倍政権や李明博政権の政策と対比させながら、その特徴を解説。そのうえで、(1)雇用回復 (2)産業競争力の維持 (3)家計債務の管理 (4)政策余地 (5)対外リスクの回避――という、文在寅政権がこれから直面するであろう5つの問題を提起した。

■ 理想と現実の狭間で模索する対外政策

続いて、パク・チョルヒ氏は文在寅政権の対外政策と日韓関係について解説した。文在寅政権の対外政策は、対話を通じた北朝鮮問題の平和的解決など当初から目指している戦略的な内容と、現実的に実現できる内容との間にはギャップが生じざるを得ないと指摘。加えて、地政学的な緊張が韓国のとり得る政策の幅を狭めていると分析した。

日韓関係については、日韓双方の企業が連携して第三国へ展開するといった日韓協力の余地が高まっているとしながらも、国内の政治・社会的要因から不安材料が残っており、楽観はできないとの見解を示した。また、慰安婦合意の問題は再交渉や一方的な破棄は行わず批判的な再検証にとどまるとし、日本で懸念されているほど日韓関係に深刻な影響を与えないのではないかと述べた。

■ 所得主導成長を軸とした経済政策

イ・ドゥウォン氏は、文在寅政権の経済政策について解説した。過去の政権が行っていた経済政策は企業に恩恵を与えて成長を促すものだったが、文在寅政権は、こうした政策が必ずしも期待どおりの結果につながらなかったと認識していると指摘した。

そのため、文在寅政権の経済政策は、その核心が「人が中心となる経済」にあり、分配と革新を同時に成し遂げて雇用の創出を図る「所得主導成長」という手法をとると述べた。この所得主導成長は、低所得者層の所得増加を起点として、消費の拡大や企業の投資・生産性向上を実現して成長につなげるという好循環シナリオを描いているものの、これが労働コスト・生産コスト上昇の要因となって企業収益の悪化につながれば、物価への転嫁や消費の抑制、企業の海外流出といった悪循環に陥るリスクがあると指摘した。また、現在は公務員など政府中心の雇用創出を打ち出しているが、規制緩和や労働市場改革などによって民間企業中心の雇用創出を促す方が重要であると述べた。

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21世紀政策研究所では、引き続き韓国情勢の変化を調査し、セミナー等を通じて情報発信を行っていく予定である。

【21世紀政策研究所】