Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年11月2日 No.3337  第123回シンポジウム「経営資源としてのデータの利活用を考える」 -21世紀政策研究所

21世紀政策研究所(三浦惺所長)は9月27日、研究プロジェクト「データ利活用と産業化」(研究主幹=越塚登東京大学教授)の活動の一環として、第123回シンポジウム「経営資源としてのデータの利活用を考える」を開催した。

■ 組織を変えないためのICT導入からの脱却

はじめに、越塚研究主幹がプロジェクトの中間報告を行い、Society 5.0の実現にはデータの利活用が重要であると述べるとともに、日本の多くの組織でデータの利活用が進まない現状を説明した。一方、ソフトウエアの開発効率が格段に進化したため、地方では新たなイノベーションが起きていることを紹介し、従来の組織やビジネスモデルを変えることが、IoT、AI、データ利活用の成功の要因であり、“組織を変えないためのICT導入”から脱却することが重要だと指摘した。

■ パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、同研究プロジェクトの委員である東京大学の田中秀幸教授、中尾彰宏教授、住友貴広准教授、若目田光生日本電気ビジネスイノベーション統括ユニット主席主幹兼データ流通戦略室長、坂下哲也日本情報経済社会推進協会常務理事、矢野和男日立製作所理事・研究開発グループ技師長が登壇し、データ利活用に関する産官学の現状や課題についてさまざまな見解が示された。

住友氏は、政府のオープンデータ推進に関する取り組みについて、「オープンデータ2.0」、データカタログサイト「DATA.GO.JP」、官民データ活用推進基本法について紹介した。

田中氏は、経済の活性化や新事業創出などを意義とした地方自治体のオープンデータの取り組みは進展しているものの、人口カバー率では48%とまだまだ低く、社会インフラとしてさらなる進展が期待されると述べた。

中尾氏は、インターネット上のすべてのデータを平等に扱うべきとするネットワーク中立性、サイバーアタックの温床となっているブラックマーケットなど通信業界におけるデータ利活用の課題を説明した。また、今後、ネットワークソフトウエア化が進み、データの取得、解析がネットワークインフラのなかで可能になると述べた。

若目田氏は、パーソナルデータの利活用推進について、健康情報や自動車走行情報などのビジネス利用の事例を紹介し、AI時代の企業のヒエラルキーは、データを持つ企業ほど高くなるとの見解を示した。また、パーソナルデータの利活用の課題としては、プライバシー対策、情報セキュリティー対策が挙げられると指摘した。

坂下氏は、官公庁のオープンデータは行政機関が本人確認を行った“うそがないデータ”を基礎データとして使えるということであり、事業者にとって価値があると指摘した。また、データ利活用にあたっては、元のモノやサービスを分解・再統合して新たなサービスや産業にするという考え方が必要だと述べた。

矢野氏は、現在の多様なニーズ、リスクの変化へ対応するには、高度経済成長期に成功した「ルール指向」では硬直的で難しく、「アウトカム(売上や生産性などの指標)指向」で実験と学習を繰り返して判断基準を迅速に更新していくことが重要であるとの見解を示した。また、実験と学習は、過去のデータを用いてコンピューター上の実験場であるAIで行えばよいと述べた。

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シンポジウムの詳細は、21世紀政策研究所新書として刊行予定である。

【21世紀政策研究所】