Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年11月16日 No.3339  21世紀政策研究所がセミナー「欧州の政治・経済情勢から展望するEUの未来」を開催

21世紀政策研究所(三浦惺所長)は10月24日、研究プロジェクト「英国のEU離脱とEUの将来展望」の須網隆夫研究主幹(早稲田大学教授)を座長として、セミナー「欧州の政治・経済情勢から展望するEUの未来」を開催した。

■ Brexitをめぐる動き

冒頭、須網研究主幹は、英国が離脱した後のEUは従来のままなのか、あるいはBrexitとは別に難民問題をきっかけとしたEU内部のリスクが顕在化するのではないかとの問題提起を行った。

続いて、若松邦弘東京外国語大学教授が英国メイ政権の現状を解説し、メイ政権が、EUに対して強硬な目線を持つ有権者と保守党内部の親EU議員という、EUに対して相反する性格を持った支持層に支えられていると分析。これがメイ政権の不安定さにつながっているとしながらも、メイ首相はしばらく続投する可能性が高いとの見解を示した。

同研究所の研究委員である伊藤さゆりニッセイ基礎研究所主席研究員は、Brexit交渉について、ハードな離脱となる確率が8割程度あるとの見解を示し、清算金問題が一番の注目ポイントであり、どのような離脱となるのかを決めるうえでこれからの2カ月が非常に重要であると指摘した。

また、吉田健一郎みずほ総合研究所上席主任エコノミストは、Brexitを踏まえた産業界の動きについて、非金融事業法人と金融事業法人における対応の差を示したうえで、関税、規制、人の移動に加え、最近は非関税障壁に産業界の関心が高まっていると分析した。

■ 独仏の政治情勢

森井裕一東京大学教授は、ドイツ議会選挙の結果について、2大国民政党の衰退と右翼ポピュリスト政党の躍進という特徴に触れ、旧東ドイツ地域で高まる不満・不安が顕著に表れたとの見解を示し、3党連立の行方が今後のドイツの政策展開を決めることになると述べた。

また、片岡貞治早稲田大学教授は、フランスのマクロン政権の現状について、主要閣僚の辞任や国民の痛みを伴う緊縮財政政策によってマクロン氏の人気が急降下している現状を指摘。また、マクロン氏は「Multi-Speed Europe」などのEU改革提案によって仏独枢軸関係の再強化を目指していると分析した。

<パネルディスカッション>

続くパネルディスカッションでは、須網研究主幹をモデレーターに、Brexit交渉の行方とEUの将来展望について議論した。

まず、Brexit交渉の行方について、伊藤氏は、英国保守党の強硬派が円滑な離脱に必要な譲歩を嫌っており、円滑な離脱を阻む要素が一定程度存在し続けると分析。若松氏は、政治の視点からみると英国内の離脱派・残留派双方にとっての落としどころがなく、合意なしの離脱に陥る可能性が非常に高いとの見解を示した。また、森井氏も、政治的にEU内の歩調が乱れているなかで大陸側から英国に譲歩することが現実的に難しくなっていると指摘するなど、合意なしの無秩序な離脱の可能性が徐々に高まりつつあるという現状が議論のなかで浮き彫りとなった。

今後のEUについて、森井氏と片岡氏は、EU全体でこれ以上ポピュリズム台頭の機運が拡大しないよう、進められる部分から統合を進めていく「Multi-Speed Europe」がEUの取り得る選択肢であるとの見解で一致した。一方、若松氏はポピュリズムの台頭がすでにEU加盟国で恒常化しており、その根底には再分配の視点が弱いEUの経済モデルがあると指摘。伊藤氏は、EU改革の柱であるユーロ制度改革に触れ、ユーロ圏が抱える圏内格差の問題は財政主権の分散にあるとの見解を示した。これに対し、吉田氏は、ドイツの反対があるなかでユーロ圏の新たな財政移転の仕組みをどうつくるかが重要であり、これができなければEU市民に対する成長の果実の分配は難しいと分析した。

◇◇◇

21世紀政策研究所では今後も引き続き欧州情勢の変化を調査し、セミナー等を通じて情報発信を行っていく予定である。

【21世紀政策研究所】