Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年12月7日 No.3342  Brexit後のEU統合の方向性

英国のEU離脱決定後、EUは深刻なリスクに覆われ、現在も強い逆風にさらされている。ユーロ危機に始まり、移民・難民危機、テロの脅威、所得格差の拡大といった事柄のすべてがBrexitとそれ以後の欧州政治情勢につながってきた。

西欧諸国6カ国で始まった欧州統合の基本理念は、経済統合による連帯を通じた平和の構築にあった。しかし加盟国の数が増え、異なる目的や経済的利益、価値観を持つ28カ国まで拡大したことによって共通認識も変容し、各国の思惑の違いから統合のあり方も揺らいでいる。

■ 反グローバリズム、ポピュリズムと所得格差の拡大

EU市場統合は、モノ、ヒト、サービス、資本の国境を越える移動を促進するため、欧州レベルでグローバリズムを共通制度化した社会実験であった。市場統合によって各国で規制緩和と民営化が進み、負担軽減と資本収益の向上に役立った。しかし2009年以降、欧州経済は巨額債務が顕在化し、債務処理のために緊縮財政と社会保障費の削減、増税を余儀なくされ、格差を拡大させた。OECDの「不平等と成長に関する報告」(14年)によれば、1985年以降、米国と英国で所得格差拡大(ジニ係数上昇)が顕著で、EU14カ国で格差が拡大しており、ギリシャのみ格差が縮小している。IMFの「グローバル化と不平等」(07年)のデータによれば、グローバル化が先進国の所得格差を広げたことを示している。

西欧企業のグローバル化に関する実証研究では、(1)輸出+投資(FDI)企業 (2)輸出企業 (3)国内企業――の順で高い労働生産性を示し、(1)のグローバル企業が最も高い生産性・高収益・高賃金(労働分配率を考慮しなければ)を生むことがわかる。単一市場では、競争力の弱い諸国家が適応するために賃金抑制と社会保障費削減、労働市場の「柔軟化」という国内政治的対応策をとらざるを得ず、これが格差拡大とポピュリズム台頭の一因となった。EU市場統合は、社会的公平性を犠牲にして市場的公平性を優先させ、「経済を脱民主主義化」するメカニズムへとして機能した。

■ 『欧州の将来に関する白書』とEU統合の方向性

今年3月、欧州委員会は『欧州の将来に関する白書』を発表した。同白書では、英国を除くEU27カ国が進む方向として、次の5つの選択肢があるとする。(1)現行どおりに進む (2)単一市場に限定する (3)統合の深化を望む加盟国だけで進める (4)統合分野を減らし効率的に進める (5)全体として統合を深化させる――。これらの選択肢は一方向の選択ではなく、むしろ複数の方向を組み合わせることで現実がみえてくる。

まず、EU統合の範囲は(2)「単一市場」に絞り、その参加国は統合のさらなる深化を望む諸国だけで、(3)マルチスピード(多段階・多速度)統合を進めることを認め、(4)共通利益を有する加盟国間のみで分野別の「クラブ財」について機能主義的統合を進める。単一市場と単一通貨が異なる論理と費用・便益の構造を持つことを踏まえれば、それぞれを別個に扱うのも改革の方向性となり得る。単一市場と単一通貨(ユーロ圏)にセットで参加する諸国には、(5)を適用しつつ、単一通貨の維持コストを低減させるユーロ制度改革の方向も考えられる。

英国EU離脱の教訓から、単一通貨には加わらず、単一市場のみに参加し、「規模の経済」から利益を得る道も残す必要がある。グローバル化を全面否定し、極端なナショナリズムや保護主義に陥ってもなんら問題の解決にはならない。むしろグローバル化に伴う雇用不安、所得低下と格差拡大を社会政策的対応で是正し、開放型自由貿易を維持することで「分断された国民」を再統合し、大多数の国民を豊かにできる。EUは、加盟国との混合政体として「統御されたグローバリズム」のガバナンスを模索していくことになろう。

【21世紀政策研究所】

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