Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年1月11日 No.3345  「技術革新を踏まえた産業構造の変化と教育のあり方」について -東京大学大学院の柳川教授から聞く/教育問題委員会企画部会

経団連の教育問題委員会企画部会(三宅龍哉部会長)は12月6日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、高等教育のあり方に関する検討の一環として、東京大学大学院経済学研究科の柳川範之教授から「技術革新を踏まえた産業構造の変化と教育のあり方」について説明を聞くとともに意見交換を行った。説明の概要は次のとおり。

■ 外的環境の“急速”な変化

AIやビッグデータ、IoTをはじめとする技術革新や、時間・空間に縛られない働き方の拡大などにより、われわれを取り巻く環境は大きく変化している。特に注目すべきはその変化の速さであり、それゆえに、習得した知識やスキルが急速に陳腐化してしまう。そのため、新たな世界で必要とされる知識やスキルをいかに身につけさせるかが教育の課題である。

一方、こうした変化のなかでフィンテックやシェアリング・エコノミーに代表される新たなビジネスチャンスも生まれることから、個人も企業もさまざまな外的環境の急速な変化に柔軟に対応することが必要になる。

■ AIに対する人間の相対的優位性

データの蓄積による学習がAIの強みであり、その土俵では、もはや人間はAIに勝てない。だからといって人間の存在価値がすぐに否定されるものではなく、人間はAIに対して相対的な優位性を持っている。それは、「まったく新しい組み合わせを考えること」と「個別性が強く過去のデータが使えない問題の解決」であり、人間とAIの融合社会では、人間はこうした能力を伸ばしていかなければならない。

しかし、実社会においては、学生も社会人もこうした潜在的優位性を発揮しきれていない。大学等や企業内研修の場でも、こうした能力に対する教育がおろそかにされてきたのが現状であり、これが日本の教育・人材育成における問題の本質である。

■ リカレント教育における重要なポイント

「適材適所」は充実した働き方の基本であるが、急速な技術革新により企業にとっての「適材」も、個人にとっての「適所」も変化し、個人が充実して働ける場が必ずしも社内にあり続けるとは限らない。そうした変化に対応できる人材育成の一環として、長期的なキャリアに向けた学び直しの場としてのリカレント教育を充実させることは高等教育の役割でもある。

リカレント教育では、座学だけではなく能力開発の提供が求められ、そのためにはニーズを持つ企業の協力が不可欠になる。経済界においては中途採用時に必要な具体的なスキルを各社で明確化するなど、社会を挙げてリカレント教育のプログラム開発に取り組むべきである。

<意見交換>

意見交換では、委員から「オープンイノベーションを必要とする現代のビジネスの場では、課題“処理”能力よりも課題“設定”能力が重要であり、高等教育においてもそうした能力の向上を教育してほしいが、現状はどうか」との質問が出された。

これに対し柳川教授から、「課題設定能力が重要であることは高等教育の場でも十分に理解しており、教える側としても伸長させたいという意欲は共通してある。しかし、例えばアクティブ・ラーニングを取り入れた講義においても、工夫なしには学生はアクティブにならない。留学生や社会人など、一般学生とは違うマインドやバックグラウンドを持つ人をディスカッションの場に入れ、議論を活性化させるなどが有効な手段の一例となる」との指摘があった。

【教育・CSR本部】