Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年5月31日 No.3363  「公正かつ健全な市場の形成と事業者への期待」 -麗澤大学大学院の髙教授から聞く/消費者政策委員会企画部会

説明する髙教授

経団連の消費者政策委員会企画部会(青木秀子部会長)は5月16日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、麗澤大学大学院経済研究科教授の髙巌氏から、消費者庁が進める「第4期消費者基本計画」の策定に向けて、「公正かつ健全な市場の形成と事業者に期待されること」をテーマに説明を聞くとともに意見交換を行った。説明の概要は次のとおり。

■ 「第4期消費者基本計画」について

消費者庁は、2020年からの5年間の新たな消費者政策を定める「第4期消費者基本計画」の検討段階にあるが、基本的な枠組みはこれまでと変わらないと考える。しかし、ネット取引等に代表される市場のデジタル化等により、消費者を取り巻く環境は劇的に変化している。このような環境変化のなか、「第4期消費者基本計画」においては、いかにして「公正かつ健全な市場」を形成するかが重要な視点となる。

公正かつ健全な市場の形成のために、行政と市場のどちらに重きを置くべきかという点は、以前から議論されてきた論点だが、グローバル化の流れのなかでイノベーションの可能性を最大限に引き出すには、市場に規律を委ねるべきだと考える。

■ 今後の消費者政策の全体構想

03年に、21世紀の消費者政策のあり方についてグランドデザインを策定し、消費者・行政・事業者の役割・責務を明確にした。しかし今後、市場のデジタル化や消費者の脆弱化がより一層進むと予想されるため、消費者政策のグランドデザインを再設計する必要がある。その際、消費者問題の事前防止機能の構築、とりわけ消費者教育や是正措置に重点を置いて取り組むべきだと考える。

特に是正措置については、昨今のデジタル化も踏まえ、表示・広告等の健全化にウエートを置くべきである。ただ、緊縮財政のなかで消費者庁の拡大や地方自治体の機能強化は難しい。それゆえ、適格消費者団体に消費者行政の機能をアウトソーシングするのが得策である。特に市場による規律を進めるには、行政が中央から市場をみるのではなく、全国各地の市場で活動する適格消費者団体に表示・広告等の健全化機能を補ってもらうのが合理的である。このような新しい視点も踏まえたグランドデザインの「再設計」が必要である。

■ 消費者志向経営の重要性

現在、企業の利益幅は縮小し、内部留保が増大している。つまり、イノベーションが起こりにくい状況にある。大企業の場合、組織内に既得権益があるため、イノベーションは一層難しくなる。これを打破するため、「消費者志向経営」を徹底してもらいたい。「消費者志向経営」のエッセンスは、消費者視点に立ってマーケットインで新たな商品やサービスを提供することであり、いわゆる「差別化戦略」を推進することである。

地道な努力をもって企業が「差別化」に成功しこれを売り出す際、必ず表示・広告を用いることになる。この時、遵法意識の低い新興企業などが不当な表示・広告で同様の「差別化」を強調したらどうなるであろうか。誠実な企業は市場で正しく報われないことになる。その意味でも、適格消費者団体による市場規律の充実を進めるべきだと考える。

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その後の意見交換では、消費者教育の重要性や、消費者団体が果たすべき役割等について活発な意見交換が行われた。

【政治・社会本部】