Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年6月14日 No.3365  COP24に向けた国際交渉の様相 -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究主幹(東京大学公共政策大学院教授) 有馬純

5月初め、ドイツ・ボンで開催された気候変動枠組み条約補助機関会合に参加してきた。2015年12月のパリ協定合意は歴史的前進であるが、パリ協定はそれだけでは機能しない。各国目標の様式、目標年次、プレッジ&レビューやグローバルストックテークの進め方、市場メカニズムのガイドライン等、実施のための詳細ルールが必要となる。他方、パリ協定は先進国と途上国の利害が鋭く対立するなかで妥協の産物として合意されたがゆえに、難しい問題の多くが詳細ルール交渉に先送りされた。このため、詳細ルール交渉は難航しており、今年12月のCOP24(ポーランド・カトヴィツエ)での合意を目指しているが予断を許さない。本質的な対立点を鳥瞰図的にみてみよう。

第1の対立軸は先進国、途上国の差別化である。パリ協定上、先進国、途上国は同じ条文のもとでプレッジ&レビューを受けることとされているが、京都議定書型の二分法にこだわる途上国の合意を得るため、詳細ガイドラインにおいて途上国の国情に応じた柔軟性を認めることとされた。先進国はプレッジ&レビューの手続きを先進国、途上国間で可能な限り共通なものとし、国別目標を客観的、数量的にトラック可能なものとすることを重視。他方、途上国は制度的に先進国に厳しく途上国に甘いレビュープロセスを主張している。パリ協定に盛り込まれた全員参加型の枠組みに可能な限り二分論を盛り込みたいということだ。

第2の対立軸は資金援助である。途上国は国別目標のなかに温室効果ガス削減目標のみならず、途上国への資金援助目標も盛り込み、報告・レビュー対象とすることをはじめ、あらゆる局面で途上国への支援拡大のルール化をねらっている。他方、先進国が野放図な資金援助の拡大に慎重であることはいうまでもない。

容易に予想されるように2つの対立軸はパッケージ化されている。途上国は資金援助に関する交渉が進まない一方、先進国が重視するプレッジ&レビューの詳細ルール交渉のみが先に進むことを許さない構えでいる。途上国のなかでも特にアフリカ諸国、最貧国は資金援助の確保を今次交渉の最大の目標としている。他方、成長著しい中国、インドなどの新興国にとって資金援助ニーズは高くなく、むしろ自分たちの温室効果ガス目標が先進国並みの報告・レビューに付されることを回避することを重視している。このため、先進国にとって受け入れ困難な資金援助要求を突きつけ、レビュー手続きの差別化で先進国の譲歩を引き出したいと考えている。このように途上国のなかでもねらいはさまざまなのだが、先進国に資金援助拡大を要求することでは利害が一致している。

先進国のなかでも共通なプレッジ&レビューを最も重視しているのは米国である。今回の出張中、オバマ政権下で気候変動特使であったトッド・スターン氏と会ったが、二分法を復活させようとする途上国の動きに強い危機感を有しており、仮に詳細ルールに二分法的な考え方が持ち込まれれば、トランプ政権はもとより民主党が政権復帰しても米国のパリ協定復帰が難しくなると言っていた。特に中国が米国よりも緩い扱いを受けることは共和党、民主党を問わず、受け入れられないということだろう。米国は引き続き交渉に参加しているが、トランプ大統領がパリ協定から離脱すると表明している以上、その影響力が低下していることは否めない。過去の経験を踏まえればEUは大事なところで腰砕けになる傾向が強い。

COP24に向けた本質的な対立軸は以上のとおりだが、当然のことながら5月のボン交渉では収斂の兆しは一切みえていない。ボンではこれまでの各国の主張をてんこ盛りにしたインフォーマルノートの若干の整理作業が行われたのみである。9月初めにタイ・バンコクで再度交渉が行われるが、その後は12月のCOP24での交渉となる。議長国ポーランドがCOP21の時のフランスのような外交手腕を発揮し、会議を合意に導けるのか、未知数である。だれも表立って口にしないが、19年のCOP25に決着が持ち越される可能性も排除できない。筆者はCOP24に参加予定であり、その結果および評価をあらためて報告したい。

【21世紀政策研究所】

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