Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年6月28日 No.3367  米朝首脳会談とその後~不安定な平和が続く -21世紀政策研究所 解説シリーズ/神田外語大学教授 阪田恭代

阪田教授

2018年6月12日、史上初の米朝首脳会談がシンガポールで開催された。朝鮮戦争以来の宿敵、アメリカと北朝鮮の首脳、ドナルド・トランプ大統領と金正恩国務委員会委員長が初めて会談し、歴史的な握手を交わした。朝鮮戦争休戦(1953年7月27日)から65年、朝鮮半島が分断され、北朝鮮の建国(1948年9月9日)から約70年を経ての歴史的な出来事である。

とはいえ、トランプ大統領本人が会談直後の記者会見で「時間が足りなかった」と率直に認めたとおり、拙速な外交であったことは否めない。首脳会談で両国首脳が署名した米朝共同声明は驚くほどシンプルで、具体性を欠いた。しかし失望してばかりではいられない。シンガポールの宴は終わり、これから再び現実と向き合わなければならない。つまり、Back to Realityである。

南北首脳会談(4月27日)に続き、米朝首脳会談が開催されたが、「対話」のプロセスが定着するかどうかはまだ予断を許さない。今後もさまざまなシナリオに備えておくしかないが、ここでは頭の整理として3つのシナリオを挙げる。

第1に、「圧力と関与」、すなわち「圧力」を維持・調整しながら、「関与」、すなわち対話・交渉のプロセスが進むシナリオである。これは「戦略的圧力と関与」ともいえる。このシナリオでは米朝対話と南北対話が連動し、朝鮮半島の非核化(北朝鮮の非核化)と平和プロセスがセットで進む。「関与・対話」路線は南北首脳会談「板門店宣言」と米朝首脳会談「米朝共同声明」が基調となる。3者(米韓朝)のプロセスが中国、日本、ロシアへと拡大し、4者(米中韓朝)や6者協議(米中日ロ韓朝)に発展する。日朝のプロセスもここに組み込まれる。

第2のシナリオでは、米朝対話(非核化)が停滞・中断し、南北対話のみ継続する。つまり米朝と南北のプロセスが分離する中途半端な対話プロセスである。国連安保理制裁決議のもとで南北交流が限定的に進められ、離散家族再会事業(今夏予定)、今秋の北朝鮮建国70周年(9月9日)や南北首脳会談記念行事(10月4日)まで続く。しかし南北プロセスだけ維持するのは限界があり、韓国にとって正念場となる。

第3のシナリオでは、米朝対話(核交渉)が失敗し、「最大限の圧力」(圧力のみ)に戻る。これは昨年の状況に逆戻りである。対話が続かなければ、北朝鮮は核・ミサイル実験を再開する可能性がある。対して米国・国連の制裁が強化され、軍事演習もレベルアップする。再び米国による軍事攻撃オプションの可能性が高まり、危機はエスカレーションする。ここで北朝鮮が対話のテーブルに戻るのか、軍事衝突に至るのか、極めて危険な状況になる。米国が抑止・防衛に徹するのか、「予防攻撃」に出るのか。北朝鮮の核・ミサイルの脅威が残存する限り、常にそのオプションがつきまとうことになる。

米朝首脳会談後の現在、第1のシナリオが試されている。非核化と平和のプロセスが軌道に乗るかどうかは、共同声明で確認された「後続」の米朝実務協議にかかっている。米朝共同声明では「朝鮮半島の非核化」と引き換えに(米国による北朝鮮の)「体制保証」を約束したが、北朝鮮のCVID(完全かつ不可逆的な、後戻りできない非核化=核放棄)は明記されなかったため、体制保証の具体的措置についても言及されていない。細部は米朝協議で詰めていく。11月の米中間選挙もにらみながら、夏ごろまでに工程表で合意ができるのか。段階的なプロセスが予定されるが、年内に初期段階で非核化に向けた実質的な措置が出てくるのか。共同声明ではプロセスの「迅速」な履行が求められている。

首脳会談直後の米ABCテレビのインタビューで「1年後」に「私は間違いを犯したかもしれない」と答えるかもしれないとトランプ大統領は述べた。このような不安定な平和のなかで日本は自らの安全保障を確保していかなければならない。核不拡散条約体制ならびに国連安保理制裁決議(同決議では北朝鮮のCVIDが明記されている)を堅持し、日米・米韓同盟を守り、日米韓でさらに結束を図り、国際社会とともに北朝鮮の非核化に向けて圧力と対話の戦略を立てるとともに、北朝鮮の変化を誘導できるような地域の平和戦略も構想していくべきである。

(6月25日脱稿)

【21世紀政策研究所】

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