Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年7月5日 No.3368  イアン・ブレマー・ユーラシア・グループ社長との懇談会を開催 -米国・中国の動向が国際情勢に与える影響について意見交換

説明するブレマー氏(左)

経済成長を続ける中国が国際社会への影響力を強めている一方で、トランプ大統領が掲げる「アメリカ第一主義」は国際社会における米国の影響力低下を招いている。世界最大の政治リスク専門コンサルティング会社であるユーラシア・グループは年初に公表した「2018世界10大リスク」で、今年は米国の影響力低下が加速し、リーダー国不在の間隙を中国が突くと指摘している。

こうしたなか、経団連は6月21日、東京・大手町の経団連会館で、同社のイアン・ブレマー社長と、今後の国際秩序やわが国がとるべき戦略等について意見交換を行った。概要は次のとおり。

■ 米中間の最大の問題は技術覇権をめぐる冷戦

まずブレマー氏は、北朝鮮、米国のイラン核合意離脱、Brexitなど問題が山積しているなかでも「最も大きな現象は中国の台頭」としたうえで、国際的なリーダー不在の「Gゼロ」の世界において、トランプ政権で米国が自国第一主義に向かうことによる最大の受益者は中国であると指摘した。

また、トランプ大統領の言動に各国の指導者が困惑している最近の事例として、カナダのG7シャルルボワ・サミット(6月8~9日)を挙げ、首脳声明をめぐる前例のない混乱ぶりを紹介した。

米国と中国という二大国の関係については、貿易戦争だけでなく地域の安全保障、領土問題も関わる複雑な構造だと指摘したうえで、「最大の問題は技術覇権をめぐる冷戦が繰り広げられていること」という見解を示した。

さらに、危機そのものというよりも、むしろ各国の危機への対応能力が課題であると指摘。2001年の9・11米国同時多発テロや08年の国際金融危機の後にみられた、G7をはじめとする国際社会の連携・協調は目下のところ期待できず、危機への対応力が脆弱になっていることを問題視した。

■ 日本の民主主義は「希望」

続いて出席者との間で活発な意見交換が行われた。

まず、中国の発展により、リーダー不在の「Gゼロ」から中国をリーダーとする「G1」に移行しているか否かに関してブレマー氏は、(1)中国人民解放軍が世界規模で展開していないこと(2)技術面では米中が依然競合していること(3)中国がリーダーとして名乗りを上げることに慎重であること――などを理由に「時期尚早」との見解を示した。

また、日本がとるべき位置づけについては、「自由貿易や開かれた市場を追求するのであれば、やはりこれまでどおり米国との関係を維持することが重要」としつつも、いかに二国間ではなく多国間の場で問題提起・合意形成に持ち込めるかが肝要だと指摘した。

さらに、今日の世界における希望を問われ、(1)健全に民主主義が機能していること(2)欧米と異なり移民・難民の問題がないこと(3)海外の戦場への派兵による紛争への関与がないこと――などを理由に「日本こそが将来の希望」と締めくくった。

【国際経済本部】