Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年9月20日 No.3377  重要労働判例説明会を開催 -「長澤運輸事件・ハマキョウレックス事件最高裁判決のポイントと今後の有期雇用・定年後再雇用の実務上の留意点」

説明する山畑氏

経団連は8月27日および9月14日に東京・大手町の経団連会館で「重要労働判例説明会」を開催した。弁護士の山畑茂之氏(第一協同法律事務所)が「長澤運輸事件」「ハマキョウレックス事件」最高裁判決のポイントと有期雇用・定年後再雇用の実務上の留意点について解説した。概要は次のとおり。

■ 労働契約法20条の最高裁判決の総論的解釈

今年6月1日、最高裁は、長澤運輸事件およびハマキョウレックス事件において、労働契約法20条(以下、同条)に関する初判断となる重要な判決を下した。

同条は、有期労働者の労働条件が、無期労働者の労働条件と、期間の定めがあることにより相違がある場合、その相違は職務内容、人材活用の仕組み、その他の事情を考慮して不合理と認められるものであってはならない、としている。

最高裁は、同条は均衡待遇(バランスのとれた処遇)の条文である、同条違反で有期労働者の労働条件が無効となっても無期労働者の労働条件と同一にはならない、労働条件の相違が合理的とも不合理とも断定できない場合は同条違反にはならないなどとした。

また、労働条件の相違の不合理性について、原則として賃金項目ごとにその趣旨を個別に考慮して判断し、補足的に(1)賃金総額の比較 (2)他の賃金項目との関係も考慮するとした。

■ 長澤運輸事件

長澤運輸事件は、定年前は正社員で、定年後再雇用で有期労働者の事案だが、(1)職務内容は同じドライバーで変更はなく (2)人材活用の仕組みも変わらず、定年後の賃金の引き下げ率は平均21%であった。

最高裁は、能率給および職務給、住宅手当および賞与などの不支給については同条に違反しないが、精勤手当については、休日以外は出勤することを奨励する趣旨であり、必要性に相違はないとして同条違反とした。

■ ハマキョウレックス事件

ハマキョウレックス事件は、現役世代の正社員と有期労働者の事案で、(1)ともにドライバーで職務内容の相違はないものの (2)人材活用の仕組みについては有期労働者には配転や出向はなく、教育訓練、等級役職制度もないなどの差異があった。

最高裁は、正社員には転居を伴う配転があるから有期労働者への住宅手当の不支給は同条に違反しないが、皆勤手当、無事故手当などの不支給、通勤手当の金額の相違は、手当支給の必要性に差異はないことなどを理由に、いずれも同条違反とした。

■ 実務への対応

まず、同条が掲げる考慮要素((1)職務の内容 (2)人材活用の仕組み (3)その他の事情)との関係を意識して、賃金項目ごとに、相違の理由を説明できる必要がある。また、全体的な賃金下げ幅についてもチェックする、趣旨が共通する賃金項目は、グループ化して比較検討する。

■ 定年の前後での業務内容等の変更の是非

定年の前後で業務内容や勤務形態を変更した方が、同条違反となるリスクは減る。他方、高年齢者雇用安定法との関係では、業務内容や勤務形態を大きく変更した労働条件を提示して損害賠償を命じられた事案もあり、注意を要する。

■ 改正法への対応

働き方改革関連法が成立した結果、正社員と(1)職務の内容 (2)人材活用の仕組み――が同一の短時間・有期労働者である場合、均衡待遇ではなく、均等待遇が必要となった(パート有期法9条)。(1)、(2)が同じ場合、まずひとつはパート有期法9条回避のため、正社員との間で、(1)、(2)のどちらでもよいので違いを設ける。もうひとつは、定年延長(無期のまま)にするが、賃金体系を60歳以降賃金が下がる制度につくり替える対応が考えられる。

【労働法制本部】