Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年10月11日 No.3380  「流通イノベーションが求めるロジスティクス高度化」 -敬愛大学の根本教授から聞く/運輸委員会

経団連は9月26日、東京・大手町の経団連会館で運輸委員会(武藤光一委員長、井阪隆一委員長)を開催した。敬愛大学経済学部の根本敏則教授から、流通イノベーションが進むなかで物流に求められる変革について説明を聞くとともに意見交換を行った。根本教授の説明概要は次のとおり。

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流通の主導権は、家電を例にとるなら、メーカーからスーパー、家電量販店、大規模プラットフォーマーへと遷移し、また、eコマースの拡大などにより流通業の競争が激化し、流通(物流プラス商流)全体の付加価値が減少している。そうしたなか、社会的要請として流通全体の生産性向上が求められている。政府は最新の「総合物流施策推進プログラム」において、物流業の労働生産性を2020年度までに2割程度向上させるとしている。物流付加価値労働生産性の向上には、流通付加価値を増やし、それを荷主と物流事業者でうまく分け合う必要がある。

物流事業者側の工夫も大切だ。日本人は自国の宅配サービスを評価しており、支払い意思も高い。サービス差別化戦略により、本来収受可能な料金を追求することは可能だろう。

近年、さまざまな流通イノベーションによりロジスティクスの高度化が求められている。サプライチェーンの上流では、FTA・EPA網の拡大もあって調達先の広域化が進み、幹線輸送効率化のニーズが高まっている。中流では、消費者ニーズの多様化・短命化により小売店は品ぞろえを拡大し、輸送の多頻度少量化が進んでいる。下流では、ネット通販の進展とともに、宅配の再配達が増え、ラストマイル輸送の効率化ニーズが高まっている。

こうした流通イノベーションに呼応し、ロジスティクスを高度化することが重要である。具体的な施策として、短期的には規制緩和と取り締まり強化がある。規制緩和について、例えば、許可なく走行できるトラックの最大総重量の上限引き上げが有効だ。また、中山間地域を中心に共同配送や貨客混載のニーズが高まっており、法規制の見直しや技術的課題の解決が求められる。他方、トラックの過積載が運賃引き下げの一因となっており、WIM(Weigh-in-Motion、走行車両重量計測システム)等も活用して路上取り締まりの徹底と罰則強化を実施することが望ましい。

中長期的には、自動走行・隊列走行技術による無人化が重要になる。22年に高速道路でのトラック隊列走行の商業化が予定されるなか、高速道路への合流方法やトラックの連結場所など、インフラ関係の課題は多い。また、IoT・ビッグデータ・AIによる「見える化」で需給マッチングを行い、標準サービス以外は追加料金を徴収するなど、多様な価格設定を検討することも必要である。これに関連し、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)のスマート物流サービスでは、物流・商流データプラットフォームを開発し、共同輸配送に取り組んでいる。将来の利活用には、荷主、物流事業者、消費者の間に信頼を形成していく必要があるだろう。

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続く意見交換では、ビッグデータによる「見える化」について、委員から「各企業がメリットを感じ、共通のプラットフォームに必要な情報をすべて提供するために必要なことは何か」と質問。これに対して根本教授は「安全運転や輸送品質をアピールできるなど、データ提供により自社の評判を高めるような仕組みづくりができればよい」と説明した。

なお、同会合では、懇談終了後、Society 5.0時代の物流の実現に向けた提言案を審議・承認した。

【産業政策本部】