Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年11月29日 No.3387  COP24に向けた見通し -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究主幹(東京大学公共政策大学院教授) 有馬純

有馬研究主幹

2015年12月に合意されたパリ協定は先進国、途上国問わずすべての国が目標を設定し、温室効果ガスの削減・抑制に取り組む初めての枠組みとして画期的意義を有する。しかしパリ協定はそれだけでは機能しない。各国目標の様式、目標年次、プレッジ&レビューやグローバルストックテークの進め方、市場メカニズムのガイドライン等、実施のための詳細ルールが必要となる。パリ協定は先進国と途上国の利害が鋭く対立するなかで妥協の産物として合意されたがゆえに、難しい問題の多くは詳細ルール交渉に先送りされた。12月のCOP24(ポーランド・カトヴィツエ)での合意を目指しているが交渉は難航している。大きな対立点は以下のとおりだ。

第1の対立軸は国別目標の範囲である。途上国は国別目標のなかに温室効果ガス削減目標のみならず、途上国への資金援助目標も盛り込むべきだと主張している。先進国はパリ協定上、国別目標は明らかに温室効果ガス排出量に関するものであり、そこに資金援助まで盛り込むことはパリ協定のリオープンであると強く反対している。

第2の対立軸は先進国、途上国の差別化である。パリ協定上、先進国、途上国は同じ条文のもとでプレッジ&レビューを受けることとされているが、京都議定書型の二分法にこだわる途上国の合意を得るため、詳細ガイドラインにおいて途上国の国情に応じた柔軟性を認めることとされた。先進国はプレッジ&レビューの手続きを先進国、途上国間で可能な限り共通なものとし、国別目標を客観的、数量的にトラック可能なものとすることを重視している。他方、途上国は制度的に先進国に厳しく途上国に甘いレビュープロセスを主張し、パリ協定下の全員参加型の枠組みのなかに二分論を復活させようと企図している。

第3の対立軸は資金援助である。途上国は資金援助の予見可能性や20年までに1000億ドルという資金援助目標の確実な達成、1000億ドルに代わる新たな資金援助目標の早期交渉開始等を強く主張している。他方、先進国は野放図な資金援助の拡大に慎重である。

容易に予想されるようにこれらの対立軸は密接にリンクしている。途上国は資金援助に関する交渉が進まなければ、先進国が重視するプレッジ&レビューの詳細ルール交渉のみが先に進むことを許さないとしている。途上国のなかでも特にアフリカ諸国、最貧国は資金援助の確保を今次交渉の最大の目標としている。他方、成長著しい中国、インドなどの新興国にとって資金援助ニーズは高くなく、むしろ自分たちの温室効果ガス目標が先進国並みの報告・レビューに付されることを回避することを重視している。

先進国のなかでも共通のプレッジ&レビューを最も重視しているのは米国である。トランプ政権はパリ協定からの離脱を表明しているが、仮に詳細ルールに二分法的な考え方が持ち込まれれば、民主党が政権復帰しても米国のパリ協定復帰が難しくなる。特に米中摩擦が本格化するなかで中国が米国よりも緩い扱いを受けることは共和党、民主党を問わず、受け入れられない。

9月に補助機関会合、10月にプレCOPが開催されたが収斂の兆しはみえていない。交渉テキストもいまだに200ページを超えており、あとは12月のCOP24での交渉となる。事務レベルの交渉での決着は不可能なので、第2週の半ばには議長国ポーランドが各国のレッドラインを見極めてスリムな議長提案を出すことが不可欠だ。関係者の間では「積み残せるものは積み残し、何らかの合意はできる」との見方が強い。しかしポーランドがCOP21の時のフランスのような外交手腕を発揮し、会議を合意に導けるのかは未知数である。決着がどうなるかは筆者がCOP24から戻った後の続報を待たれたい。

【21世紀政策研究所】

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