Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2019年3月7日 No.3399  「中国問題群」にどう向き合うか -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究委員(東京大学社会科学研究所准教授) 伊藤亜聖

伊藤研究委員

■ 「中国屋」の時代

中国問題を検討することはかつて中国専門家の専売特許であったらしい。ここでいう中国専門家とは中国語を理解し、現地に滞在した経験を持つような人物を意味する。

ビジネスの領域においても現地語を使い、特別な思い入れを持つような人物が国交正常化以前から、先頭に立って中国市場を開拓してきた。二国間の歴史に加えて、複雑な国情や文化的慣習に基づいて、こうした知識、ノウハウ、ネットワークが有効に機能してきたからであろう。

現在でもこうした領域はいまだに残存している。しかし中国が世界第二の経済大国になったのに、中国語を学ぶ学生は大して増えていないし、その機運もない。仮に中国語が世界各地でときおり使えるにしても、機械学習が花咲く時代にローカルなナレッジの習得を若い世代に期待するのも酷かもしれない。

問題はいま、中国およびその周辺で発生しつつある問題群を把握し、解くにあたって、どのようなメンバー構成とアプローチをとるべきか、明確な回答がないことである。いわゆる「中国屋」の知恵が求められることも引き続きある。だがそれだけでよいのか。米中対立と技術競争、新興国の時代と「一帯一路」など、巨大な課題が目の前にある時代に、どのようなアプローチが有効だろうか。

■ ベンチャーエコシステムを歩く人たち

筆者は2017年度に広東省深圳市に滞在し、現地を歩き回った。そこで出会ったのは、いわゆる非「中国屋」の人たちだった。より具体的には、エンジニアやスタートアップ企業家が自らのコネクションを頼りに現地を訪れる様子を見た。

彼らは、例えばラスベガスやベルリンの展示会ブースで中国企業に出会い、場合によっては連絡先を交換し、そしてバイタリティーのある人は実際に訪問をする。もちろん中国語はできないので、言語的に苦労することも多いし、またグレートファイアウオールを甘くみてGoogleにアクセスできず途方にくれることもあるだろう。

しかし、それでも彼らは自らのネットワークでなんとか興味ある企業や人物に会おうとするし、この情報化時代において、それはまったく可能なのである。

そして彼らは訪問先でアルファベットで書かれた具体的な技術の名前を、意外と言うべきか、当然と言うべきか、瞬時に把握する。中国屋の筆者は横に座り、沈黙する。このようなことが起きるし、それが21世紀であるし、これもまた中国なのだ。

コミュニティーという言葉を使うべきか少し迷うが、異なる知識やバックグラウンドを持つ人々が、ともに歩くことで見えてくるものがある。

■ 中国問題群に援軍は来るか

米中摩擦が貿易均衡問題であるときには、これまでも国際経済学者が発言してきた。そして現在では「米中新冷戦」などという言葉も躍るなか、国際政治、そして安全保障のプロフェッショナルが発言することが求められる。中国経済をみると、構造的な景気減速問題がかねて課題となってきており、同時に興味深い技術革新や社会における新サービスの登場もみられる。筆者も中国屋の一人としていくつかの課題について発言していきたい。

同時に、新たなるそして異なるバックグラウンドを持つ人たちが彼らなりに中国を見て歩き、そして発言していくことがより大事だ。そしてそれは広い意味の中国問題群に対応するうえでは明らかに援軍なのである。「中国屋」もまた、逆にどこかで援軍になれることもあるかもしれない。

ビジネスにおいても中国プロパーのような人材に加えて、場合によっては日本で、米国で、アジアで、その他の海外で先駆的プロジェクトの経験を持つ人が横滑りで中国を、そしてもっと言えば新興国を見てもよいのではないか。米西海岸でベンチャー企業を見ていた人が中国沿海部の主要都市を歩き回る時代なのだから。

【21世紀政策研究所】

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