Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2019年4月18日 No.3405  健康長寿社会に必要な認知症対策について聞く -国立長寿医療研究センターの鳥羽理事長・総長から/社会保障委員会

経団連の社会保障委員会(鈴木茂晴委員長、鈴木伸弥委員長、櫻田謙悟委員長)は3月28日、東京・大手町の経団連会館で、国立長寿医療研究センターの鳥羽研二理事長・総長から、健康長寿社会に必要な認知症対策について聞いた。概要は次のとおり。

■ 認知症社会の到来と最近の施策動向

認知症は身近な病気であり、2040年には働く世代3人で、1人の認知症またはその予備群を支える構造になる見通しである。認知症社会の到来が見込まれるなか、政府は認知症施策のより強力な推進を図るため、18年12月の認知症施策推進関係閣僚会議を皮切りに、「新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)」の改訂に向けた検討を現在進めている。与党内でも検討が進められており、今後、認知症基本法案の国会提出に期待している。

■ 医学的見地を踏まえた認知症予防の現状

認知症対策の第1のキーワードは、「予防」である。予防にあたり、早期発見が重要であるが、認知症の予兆として、同じ話の繰り返しなどに加え、最近の研究では歩行速度の低下などとの関係も明らかになっている。こうした臨床面に加え、科学的研究では脳内の異常タンパクの蓄積によって認知症の進行の程度が測れることが確認されている。現在、高額な機器を用いる検査が必要となるが、国立長寿医療研究センターを中心として血液一滴から異常タンパクを計測する技術が世界に先駆けて開発され、今後、簡便で安価な検査実施が期待される。

予防には、加齢に伴って脳の機能が落ちた部分を、機能が残っている部分で代償的に補う考え方が重要である。また、脳機能の低下を緩やかにするうえで、運動の効果に対する評価が高い。これに加え、学習などの知的活動や、食事面からのアプローチも重要である。そのほかにも、認知症の危険因子として糖尿病や肥満、高血圧などがWHOの論文で挙げられている。こうした研究のための基盤として「オレンジレジストリ」というコーホート研究を現在全国規模で展開している。

■ 共生を目指した生涯にわたる認知症ケアのあり方

認知症対策の第2のキーワードは、「共生」である。認知症予防は発症を先送りするものであるため、その先の生涯にわたる治療やケアも重要となる。ケアの提供にあたって、ロボットの活用も、認知症の方の生活支援に有効である。また、共生の観点から地域づくりが重要である。地域のあらゆる職種が役割を発揮し、認知症の方々の地域生活の支援を考えていかなければならない。

■ 日本の認知症対策の現状と課題

日本は認知症の有病割合が世界的にみて高いにもかかわらず、研究開発体制の整備が不十分で、疫学的な調査も実施できない状況である。日米の認知症患者数はほぼ同数にもかかわらず、日本の研究開発投資額は米国の約100分の1、研究者数も米国の約3万人に対し、日本は約2000人にとどまっている。

認知症対策という今後重要となる分野に対し、政府のしっかりとした対応に加え、産業界からも、イノベーションに向けたネットワークへの積極的な参画をいただきたい。

【経済政策本部】