Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2019年4月18日 No.3405  盛り上がりをみせる米国の温暖化政策論議<中> -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究主幹(東京大学公共政策大学院教授) 有馬純

有馬研究主幹

予想されるごとく、グリーン・ニューディールに対する評価は共和党と民主党で大きく割れている。パリ協定離脱声明、クリーンパワープランの解体等、温暖化問題に背を向けるトランプ政権の姿勢に憤激していた民主党関係者、環境政策関係者は、「グリーン・ニューディールが短期間の間に温暖化問題への国民の関心を喚起することに成功した」と高く評価している。

これに対して共和党は、「グリーン・ニューディールの掲げる目標は全く非現実的であり、これを実施すれば膨大なコストがかかり、米国経済、雇用に大きな悪影響が生ずる。温暖化防止に名を借りた社会主義マニフェストである」と強く攻撃している。ある保守系シンクタンクは電力の脱炭素化で5.4兆ドル、運輸部門の脱炭素化で1.3~2.7兆ドル、雇用保障で6.8~44.6兆ドル、ヘルスケアで36兆ドル、住宅保障で1.6~4.2兆ドルかかると試算している。トランプ大統領はツイッターで「民主党はカーボンフットプリントのためにすべての航空機、車、牛、石油ガス、軍隊を恒久的に消滅させようとしている。すばらしい!」と揶揄している。

上院共和党のマコーネル院内総務は3月26日にグリーン・ニューディール決議案を採決に付した。共和党多数の上院で否決は確実であるが、石炭産出州の民主党議員に反対させ、民主党の分断を図るとともに、複数の大統領選候補者が決議案を支持していることを念頭に、賛成票を投じた民主党議員を「社会主義者」として攻撃することを意図した戦術である。上院民主党のシューマー院内総務は「ヒアリングも議論も行わずに採決に付するのは横暴である。共和党は気候変動についてなんの代案も出していない」と反発し、民主党議員はすべて「賛成」でも「反対」でもなく「出席」票のみを投ずるよう指示した。採決結果は53名の共和党議員に加え、民主党議員3名、独立系1名の反対で否決となった。それ以外の民主党議員は出席票のみを投じたが、共和党は「自分で提案しておきながら賛成票を投じないのは言行不一致だ」と非難するだろう。民主党多数の下院では採決の予定はない。

温暖化問題が2020年の大統領選に向けて大きなイシューになることは確実だ。「地球温暖化は深刻な問題であり、対策が必要」という米国人の割合が66%という世論調査結果もあり、民主党は野心的な政策アジェンダを掲げ、トランプ政権の後ろ向き姿勢を攻撃することで大統領選を有利に進めることをねらっている。他方、世論調査上、温暖化防止に関心が高いとしても、それが大統領選の投票基準にどの程度つながるかは未知数である。別の世論調査では、温暖化防止のために負担する用意のある金額は月額1ドルまでという回答が60%を占める。共和党はグリーン・ニューディールが家計、経済にもたらす負担増をプレーアップし、左傾化する民主党を攻撃する戦術である。同時に共和党も温暖化について何かを打ち出すことも必要だろう。アレクサンダー上院議員のように温暖化問題の重要性を認知したうえでイノベーションを中核とすべきだと論ずる動きもある。

サンライズ運動やグリーン・ニューディールの背後にいる人びとはオバマ政権と関係の深かった環境シンクタンクではなく、左派の活動家であるという。ある有識者は「民主党の温暖化政策議論が彼らにハイジャックされた」と指摘する。米国の環境シンクタンクのなかには、「グリーン・ニューディールは過激であるがゆえに、共和党から社会主義との攻撃を受けるなど左右の対立激化を深め、本来、必要とされる超党派の取り組みをますます困難にする」との点を懸念するものもある。温暖化問題への関心を喚起したことは確かだが「痛し痒し」というところらしい。

【21世紀政策研究所】

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