Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2019年5月30日 No.3409  日本的雇用慣行の動向 -一橋大学経済研究所の神林教授が講演/雇用政策委員会

経団連は4月24日、東京・大手町の経団連会館で雇用政策委員会(岡本毅委員長、進藤清貴委員長)を開催し、一橋大学経済研究所の神林龍教授から「日本的雇用慣行の動向~これからの『正規の世界・非正規の世界』」をテーマに講演を聞いた。概要は次のとおり。

■ 長期雇用慣行の残存

近年、日本的雇用慣行が崩壊したとの指摘がみられるが、少なくとも長期雇用慣行は残存していると考えられる。

正社員の雇用がどの程度維持されているのかを示すため、総務省の就業構造基本調査を基に、勤続5年以上の大卒者が同一企業で働き続けている割合(大卒10年残存率)の推移を年代別に調査した。その結果、1982年から2012年を通じて、若年層と女性を除き、率の目立った低下はみられなかった。特に30歳以上では、一貫して8割程度と高い。09年のリーマン・ショックや11年の東日本大震災によっても、長期雇用が毀損したとは考えにくい。

■ 非正社員の増加

正社員の長期雇用が一定程度維持されている一方で、非正社員が増加している。この非正社員の増加に伴い減少しているのは、正社員ではなく自営業者等である。

非正社員のなかでも、契約期間の定めのない無期非正社員が特に増加しており、18~54歳の全人口に占める割合は、82年の1%に対して07年には8%となっている。一方、自営業者等の割合は同14%から同7%へ減少している。なお、一般的に近年増加したとみなされている有期雇用の非正社員については、全人口に占める割合でみた場合、82年の3%に対して07年は4%と微増である。これらの傾向は、17年でも同様となっている。

■ 労働市場を支える労使自治の原則

以上のように、日本で強固に正社員が残存している背景の一つに、労使自治の原則があると考えている。労使の円滑なコミュニケーションによる労使関係の構築が、現在の労働市場の基礎条件を形成し、安定的な組織運営を可能としてきたといえる。

労使自治の原則と結びつきの強い代表的な原則として、労働法における二大法理が挙げられる。解雇権濫用法理は、多くの整理解雇に関する紛争の原因が労使コミュニケーション不全にあることが示すとおり、労使コミュニケーションを回復させることを通じて、紛争解決を導く法規範として解釈できる。就業規則の不利益変更法理も、労使関係が十分に機能していることを前提とした法規範として解釈できる。

■ 労使自治への第三者介入

日本の労働市場では、近年、労使関係に第三者が介入するかたちで雇用政策が策定される傾向が強まっている。例えば、最低賃金の引き上げにより、労使で決定するはずの賃金水準が制約されるケースが増えている。

欧州において労使自治の原則への回帰が起きているように、労使への第三者介入が必ずしも常に効率的ではないと考えられている。欧州では、政府と労使の間の中間的な組織がルール形成に関与する場合も多い。今後、労使自治への第三者介入を是とするか、最低限に抑えるべきか、中間的組織の果たすべき役割も踏まえつつ考えていく必要がある。

【労働政策本部】