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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2019年6月20日 No.3412 最近の経済政策の評価と課題~アベノミクスの再検証を中心に -東京大学大学院の福田教授から聞く/経済財政委員会企画部会

経団連は6月5日、東京・大手町の経団連会館で経済財政委員会企画部会(中島達部会長)を開催し、東京大学大学院経済学研究科の福田慎一教授から、最近の経済政策の評価と課題について説明を聞くとともに懇談した。説明の概要は次のとおり。

■ アベノミクスが目指すもの

物価が持続的に上昇せず、経済の長期停滞が続くなかにあって、アベノミクスが目指したものは、「デフレからの脱却」と「富の拡大」である。まさに「どれだけ真面目に働いても暮らしがよくならない」という日本経済が直面する課題を克服するということを目標とした点は納得感がある。

1980年代までの日本経済は、主要先進国のなかでも際立って高い成長を遂げ、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と称されるほどであった。しかし、90年代初頭のバブル崩壊を機に、成長率は鈍化し、経済の好循環の流れは一変した。成長率は主要先進国と比べて著しく低く、物価や賃金が持続的に上昇しないデフレ状態が進行した。

こうしたなか、2012年末以降、大胆な金融緩和、機動的な財政出動、民間投資を喚起する成長戦略を柱とするアベノミクス「三本の矢」が掲げられた。異次元の金融緩和による円安・株高が好調なスタートダッシュを演出し、経済成長率、企業業績、雇用情勢等、多くの経済指標も著しく改善した。他方で、景気回復の実感は依然として乏しく、特に潜在成長力を高めることが期待された成長戦略は「道半ば」と評価された。

■ アベノミクス「新三本の矢」と新たな構造改革の必要性

15年秋には、潜在成長力を高めるため、構造改革にターゲットを絞った「新三本の矢」が打ち出されるとともに、17年末には、その実現に向けた生産性革命や人づくり革命が経済政策パッケージとして取りまとめられた。

構造改革には、成果が出るまでのタイムラグがあることや、供給能力の拡大に伴い、かえってGDPギャップが広がるという点で批判がある。しかし、財政・金融政策が拡大しきった日本において、残された政策オプションは限られている。こうしたなか、有効な構造改革は、将来不安を解消して日本経済に対する悲観論が後退することを通じて、国内投資や国内消費など現在の需要サイドに好影響を与え、結果としてデフレ解消に結びつくという効果を持つ。

進行中の構造改革のなかには、経済連携、インバウンド、攻める農業、労働市場改革という面で成果を上げつつあるものもある。しかし、依然として潜在成長率は伸び悩んでおり、より抜本的な改革が求められる。特に急速な少子高齢化と累積した巨額の財政赤字への対応が急務である。これらの問題に手をつけないと、日本経済の本格的な成長にはつながらない。

■ 新時代にふさわしい市場ルールの構築

あわせて、金融システム改革も必要である。金融機関が自ら主体的に創意工夫を発揮し、良質な金融商品・サービスを提供することを通じて、ベンチャー企業等に対して成長資金を供給するメカニズムを実現することが望ましい。

さらに近年の情報革命によって、一部の新興企業に富が集中し、労働者・資本の供給者双方への分配が減少するという現象も顕在化している。情報独占による弊害は欧米でも問題視され、規制する動きも出始めている。こうした点を踏まえれば、新時代の課題として、経済成長というパイの拡大とともに、不平等を生み出すこれまでの市場ルールを是正していくことも重要である。

【経済政策本部】

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