Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2019年8月1日 No.3418  夏季フォーラム2019 -第1セッション「激動の国際政治情勢」

岡本氏

経団連(中西宏明会長)は7月18、19の両日、長野県軽井沢町で夏季フォーラム2019を開催した(前号既報)。

第1セッションでは、外交評論家の岡本行夫氏から「激動の国際政治情勢」をテーマに講演を聞くとともに意見交換を行った。講演のポイントは次のとおり。

■ 安倍政権のレガシー

まもなく憲政史上最長の在任日数となる安倍首相が目指すレガシーは、まず憲法改正。しかし、世論調査では6割以上が憲法9条の改正に反対との数字もあり、国民投票の結果は予断を許さない。私は改正には賛成だが、タイミングは慎重に扱うべき問題である。 二つ目は北方領土問題。安倍首相はプーチン大統領とは良好な関係だが、二島先行返還といっても色丹島のロシア住民の反発も強く、日本国民の期待感をマネージすることも課題となる。 三つ目は沖縄問題。米軍基地自体は縮小の傾向にあるが、本土が沖縄の多大な負担をいろいろなかたちで分担する姿勢を見せない限り、問題の根本的な解決とはならないだろう。

■ 日韓関係の混迷化

現在、韓国では輸出貿易管理令改正を発端に反日運動が起こりつつある。徴用工問題は、法的に決着済みであるほか、実態面でも「強制労働」ではなく、韓国の主張には道理がない。しかし「ホワイト国」から韓国を除外した日本政府のやり方は拙劣で、必要以上に韓国の敵愾心をあおった。もっとうまいはずし方はあった。今後日韓関係はさらに深刻化する懸念がある。

■ 日中関係の今後

日中関係は良好だ。習近平国家主席や李克強首相の次の時代を担う第六世代と呼ばれる開明的な若い世代によって、今後日中関係は好転していくことが期待される。一方、中国による台湾への武力使用は可能性として常に存在する。現実化すれば、日本の安全にとって最大の危機となる。

■ 安全保障に関する日米関係

トランプ大統領は2017年の大統領就任直後の日米共同声明において、「あらゆる種類の米国の軍事力を使った日本の防衛に対する米国のコミットメントは揺るぎない」と、核による日本防衛を表明した。歴代で最も強く日本防衛のコミットメントを表明した大統領であった。この声明は、周辺諸国に影響を与えている。日本は日米安全保障条約第6条で米軍に基地を提供している。しかし、最近のトランプ大統領はマティス国防長官などの立派な補佐役を失って、1980年代の対日認識に「先祖返り」しており、日米安保条約は不公平だと非難している。今後の安保体制をめぐっては日米の摩擦が生じ得る。

一つの問題は、米国からの武器の買い入れがこの5年間で248%も増えていることだ。日本の防衛予算はほぼ変わらないから、その分は国内産の防衛装備品調達削減というかたちでシワ寄せを国内企業に与える結果となっており、大きな問題である。安保体制が正常に機能しているからこそ、周辺諸国に対する抑止力が働いている。トランプ氏の認識は早急に解決する必要がある。

■ グローバリゼーションが与える影響

1989年から始まったグローバリゼーションは世界全体の底上げを実現したが、一方で貧富の差を拡大した。また、プーチン氏、習近平氏、金正恩氏に代表されるような独裁的な指導者が増え、彼らが世界に与える影響は今後大きくなっていく。加えて、人口爆発や技術革新、産業構造の「津波的」変化によって、産業構造は急速に変化し、その結果、世界は分散型の資本主義に変わりつつある。平成が始まったとき、時価総額トップ10の企業のうち8社は日本の企業だった。現在のトップ10のなかに日本企業の名前はなく、さらにトップ10の大半はGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)などのプラットフォーム企業である。自律分散型の企業が大半を占めるようになってきているという変化がある。世界的地位を後退させつつある日本は、この激動の世界情勢に柔軟に対応していく必要がある。

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その後、台湾をめぐる武力衝突の可能性や中国の今後の動向、米中の覇権争いの展望などについて多数の質問があり、活発に意見交換が行われた。

【ソーシャル・コミュニケーション本部】