Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2019年11月14日 No.3431  「エンゲージメントの向上」 -青山学院大学の山本教授から聞く/雇用政策委員会人事・労務部会

経団連の雇用政策委員会人事・労務部会(國分裕之部会長)は10月30日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、青山学院大学経営学部の山本寛教授から「エンゲージメントの向上」をテーマに講演を聞いた。概要は次のとおり。

■ エンゲージメントが重視される背景

近年、社員のエンゲージメントが重視されており、企業の課題意識が高まっている。この背景には、(1)優秀な人材の定着(リテンション)(2)働き方改革による労働生産性向上における仕事の内容的側面改善の推進(働きがい)(3)SDGs(持続可能な開発目標)目標8「働きがいも経済成長も」の達成――が求められていることがある。

エンゲージメントとは、実践的には高業績につながる企業と個人の強い結びつきを意味している。特徴としては、安定的・長期的な状態であることや、「心理的エンゲージメント(職務満足、組織コミットメント、職務関与)」と「行動的エンゲージメント(組織市民行動、適応行動)」の二面性があることなどが挙げられる。

また、エンゲージメントは複数の指標によって定量的に評価することができる。慶應義塾大学大学院・岩本隆研究室の調査によると、エンゲージメントが高い企業は、営業利益率や労働生産性が高くなる傾向にあるとの結果が出ている。

■ 日本のエンゲージメントの現状

米ギャラップ社の調査(2017年)によると、「熱意あふれる社員(エンゲージメントの高い社員)」の割合は、日本は6%(139カ国中132位)と極めて低い。要因としては、(1)日本人の回答傾向(「どちらともいえない」等の回答が多い)(2)多様化する社員と、集団管理を基本とする日本型雇用システムとのミスマッチ(3)職能型の処遇やメンバーシップ型雇用の限界――が考えられる。

こうした状況を踏まえ、本格的な個別管理やジョブ型雇用の活用を検討することが望ましい。

■ エンゲージメントを高める取り組み

社員のエンゲージメントを高める取り組みとしては、まず、上司の資質向上が必須となる。相手に合わせた励ましや教育指導とともに、部下の状態を見ながら権限委譲を行うことが求められる。

社員の頑張りや成果を認める施策も有効である。具体的には、表彰制度や職務提案報奨金、ピアボーナス(社員同士が少額の金銭や感謝のメッセージを送り合う制度)の実施が考えられる。

スキルの見える化も効果が期待できる。スキルの向上度が明らかになることで周囲から評価され、エンゲージメントの改善につながる。

加えて、経営トップが能力開発の重要性についてメッセージを発信することや、上司が部下に対して、研修等で新たに身につけたスキルを活用する機会を提供することも不可欠である。

また、働きがいは、働いている時だけではなく、働いた後に振り返ることで感じられることも多い。そこで年休やサバティカル休暇(使途に制限のない長期休暇)を取得しやすくすることによって、働きがいを感じやすくすることができる。

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社員が働きがいを感じ続けることは難しい。組織や上司は、次々と新しい工夫に取り組み、エンゲージメントの向上を図ることが求められる。

【労働政策本部】